コウノトリの歌

SONG OF THE STORK コウノトリの歌 [DVD]

SONG OF THE STORK コウノトリの歌 [DVD]

ベトナムからの視点で描かれる戦争の歴史。当時の記録フィルムや、ベトナム戦争体験者らの証言の合間に、戦争を生きた若者達の間でかつて展開したかも知れないフィクション・ドラマを交えて送る準ドキュメント作品。
映画の進行役は映像作家トラン・バン・チュイ。彼もまたベトナム戦争体験者であり、当時は従軍カメラマンとしてホーチミンルートの最前線に立っていたのです。
ベトナム側から撮られた戦争映画を観たのはこれが初めて。これまでは全てアメリカ側の視点で捉えられた映画ばかりで、かの戦争の悲惨さについては、「いかにアメリカにとって大変だったか」と言う立場でしか知りえなかったことです。
そこには、ジャングルに身を潜め、いくら倒そうが次から次へと湧き出てくる、恐ろしい暗殺集団としてのベトナムコマンドーの姿が描かれてるばかりでした。非人間的で、本能の赴くままに殺戮を繰り返す、アメリカにとっての恐怖の対象と言った位置づけ。
しかし市民レベルで見ればアメリカこそは侵略者であり、ベトナム人民は単に自分たちの土地を守るために戦ったに過ぎないわけです。もちろんアメリカだけでなく、ここには共産国側の軍事介入と言った問題も孕んでいます。
当時冷戦を展開していた東西の大国による代理戦争と言った側面があることは周知するところではあります。しかしそれ故に、この映画で描かれているベトナム人の率直な気持ちに触れるにつけ、この度の戦争がいかに理不尽なものであったかに心を痛めるばかり。
実に衝撃的な映画でした。これを見た後には、もはや「プラトーン」も「ジェイコブスラダー」も、今までのように見ることは出来ないでしょうね。
ドキュメントの部分とフィクションの部分の編集が上手く、映画作品として完成されたものになっています。ラストはソクーロフぽい雰囲気が感じられ、ドキュメント色の強い映画に悪夢的な幻想性が加わって、作品にアーチスティックな色彩を添えていました。
それにしてもアメリカって国は!そう思わずにはいられない気持ちになります。

@ちぇっそ@