この道は母へとつづく

孤児院に預けられている少年ワーニャ。彼はイタリア人夫婦のもとへ引き取られることが決まった。しかしある日、同様にして外国のお金持ちに引き取られて行った孤児の母が、自分の息子を探しにやって来た。子供を捨てたことを後悔し、もう一度息子と暮らしたいと懇願する彼女であったが時既に遅し。その願いもむなしくも追い返されてしまう。その様子を見ていたワーニャは、もしかしたら自分のお母さんも僕を探しているかも知れないと思い、孤児院を抜け出し、母親探しの旅へ出るのだった。
ロシアの新鋭監督アンドレイ・クラフチュークによる長編。
孤児院の子供たちは、多額の報奨金を支払われて国外の資産家たちに引き取られて行く。親に捨てられたりなどして身寄りのない彼らに、将来の希望は薄い。そこで彼らは、お金持ちの夫妻に気に入られ、海外での裕福な暮らしが出来ることを夢見ているのです。
しかしワーニャはそんなことよりも、母親の姿をひと目見たいと孤児院を飛び出します。しかし既に書類上の手続きは済んでしまっているので、子供が行方不明とあっては、契約を交わしたイタリア人の夫妻に全額返済しなければなりません。そこで孤児院の院長が先頭に立ってワーニャを探し出そうとするのです。
経営の苦しい孤児院での生活は、お世辞にも満足の行くものではありません。子供たちは外へバイト出て、わずかながらのチップを手にして帰って来ます。しかしここでは年配の少年達が幅を利かせており、ワーニャのような幼い少年から年貢を取り立てることをしています。
まるで大人社会同様、搾取する者とされる者の縮図が垣間見られ、ロシアでの厳しい現状が、最終的には社会的弱者である子供に及んでいる光景を目の当たりさせられます。このようにテーマとしてはロシアの抱える問題が取りざたされ、ちょっとやそっとでは解決のしようがない重苦しい一面を伝えているでしょうか。まるで現代の様子とは思えないほど悲惨であると言えます。
しかし作品としては非常に楽しいもとになっており、特に主人公ワーニャ役であるスピリドノフ君の好演が光っています。彼の持つけな気さと表情の豊かさ。母を想ってか、窓辺に佇むさびそうな彼の顔など切なさがこみ上げて来ます。しかし同時にしたたかさも持ち合わせており、決してステレオタイプではない、現実の少年の有様を生き生きと演じていたと思います。
個人的にはラストの締め方が秀逸だと思いました。あそこから更に余計なエピソードを挟まず、すっぱりと切り捨てた大胆さは、いい意味で裏切られたと共に、聴視者の想像にゆだねた見事な演出であったと感服。
単純な意味での「泣き落とし」を廃し、「良い映画を見た!」と正当的に感動できるギリギリの線。「泣けたから良い」のではなく、「良い作品だから感動する」この絶妙なバランスは、編集の見事さに他ならない手際の良さでありました。
とは言え、ストーリーは最後きちんと着地してますので、決して腑に落ちないラストにはなっていません。ただこの演出が気に入るかどうかと言う問題。「冬ソナ」などが好きな人は、もしかしたら「ちゃんと最後に泣かせてよ!」って言うかも知れませんけど(笑)
私がこれまで見てきたロシア映画の中でも、かなり上位に食い込む素晴らしい作品でした。ハリウッドの超大作しか見た事のない人にでも、「これってロシア映画だから、もしかしたら退屈しちゃうかも」なんてエクスキューズを入れずにお勧めできます!(笑)

@ちぇっそ@