電車オタクの悲しいサガ

下半身のおとこ (リヨン・ブックス)

下半身のおとこ (リヨン・ブックス)

今朝、電車に乗っていると、何やら足元から赤ちゃんのような鳴き声が聞こえてくるじゃありませんか。
はて。なんじゃらほい?
突然気付いたその怪音に、私はとっさに思いました。
「これ、俺にしか聞こえてなかったらどうしよう?」
なんとぞっとする考え!
しかしここはひとつ冷静にならなければいけない。全ての怪異を心霊現象で片付けてしまうのは危険だし、もし心霊の世界があるとするならば、その心霊界に対しても大変失礼を働いてしまう所業であるからです。
先ずは音が発せられるタイミングから検証してみよう!
すると、どうでしょう。
特にそれが顕著に聞こえるのは、電車が発車するときと、ブレーキが掛かったときであることが分かりました。
お、これは!
こうなれば早々に合点が行くもの。
すなわち、京浜急行(通称、京急)なんかでよく聞かれる、ドイツ式で音階の鳴るディスクブレーキの如し。
なんか仕組みはよく知りませんが、確か油圧が動くときにどうしてもノイズが出てしまうので、それならいっそのこと、音階を付けて楽しんでしまえ!と言うのが開発のコンセプトだった気がします。
毎週タモリ倶楽部を見ていると大変勉強になりますね!
そんなわけで、ついにこの都営線にもそんなお洒落な施しがされるようになったかと、私はとても嬉しく、その新しい音色に聞き入っておりました。
しかしそれにしても、赤ちゃんの鳴き声とはまた不気味でありますなぁ。
ん?
なんかでもこの結論だと違和感あるなぁ。
えーっと、なんだろ。この心地悪さは?
そして私は気が付いたのです。
ちょうど私の向かいに座ったおじさん、その足元に置かれた大きなバッグ。
粗い目のメッシュ素材が、通気性を重視した機能を果たしています。最近流行りのシースルーっぽくもあり、なかなかお洒落じゃありませんか。
お洒落・・・。ん?
「モゾモゾ」
う、動いたぁ〜!
そうです。そこには小さな犬っころがすっぽり収まっており、電車の揺れるのに合わせて、時折「ク〜ク〜」鳴いていたと言うわけです。
高度に発達した頭脳が、生物本来の保護機能をめくらにしてしまった人間と違って、犬や猫の類は本能むき出しであり、自然界で暮らすに必要な、充分に発達した三半規管などを備えております。
従って、少しの振動でも(地震と勘違いするのかな?)敏感に反応し、とっさに危機を察知すると言った次第。
だから動物は乗り物が苦手。
しかし、止む無くそう言った運搬機関で運ばなければならないときもあり、飼い主としては非常に心痛いところでありますが、時として動物たちにムチ打たねばならん場合があるのです。
そんなわけで、謎の泣き声の正体がはっきりしました。
しかし何ゆえ目の前の出来事に気付かなかったのか。実はその辺りの謎につきましては、とっくに判明しているのであります。
大島駅辺りから乗ってきた女性。
ブラウンで品の良いワンピースを着たその淑女は、まるで夏の終わりを告げる涼風のような軽やかさで、私の隣の席へス〜っと入ってきた。
まだ夏の残り香をたたえた黒い髪が、電車内の湿った空気を両断する・・・。
なんともしおらしい女性の態度。
「清涼感とはこのことを言うのか!」
しなやかな二の腕から、私の上腕二等筋へと伝わる温かみがある。
触れそうで、触れない。
微妙な距離感を保ったまま、しかし決してそれ以上2人の隙間が開くことはない。
私が不快感を発していないことを希望する。
吹いたら飛んでいってしまいそうな、はかない陽炎のような女性(ひと)。
深々とした森の茂みで、野生のホオジロに気付かれぬように、ただただじっとしている私がそこにいたのだった。
その女性にある、全身の毛穴から発散される二酸化炭素は、なんとも甘い香りを漂わせている。
これぞ甘美なる喜び!
取りこぼすことのないよう、大きく広げた鼻の穴で、私は周囲の空気全てを吸い込むことに執着した。
堪えられぬ淫靡なる調べ。
私は欲情した。
横目で見やる、そのたわわに実ったふくらはぎに、夜の営みを想像してみたくなる。
一体この女性は、ベッドの中でどのように変貌するのであろう。
内股の割れ目の奥に、どのような魔物を飼っているのだろうか、と!
すんません。段々と勝目梓先生に代表される、官能小説のごとき趣きになってまいりました。
いえ、決してそんなじゃないんです。
そんないやらしい目で、毎日女の人を見ているわけではないんです!
本当に何かこう、「いい感じ」のする女性で、私は思わずそちらに神経が集中しておったわけですね。
まあ、今更何を言い訳しても、もはや私につきまとう「エロオヤジ」の称号を拭うことはできないでしょうが。
だって、犬っころより、女の子のほうが好きなんだもん!

@ちぇっそ@