黒澤レポート 中間報告

リア王 [DVD]

リア王 [DVD]

ま、この3週間の間に6本ほど見たので、何か少し書いておこうかとおもいます。
もっとも、黒澤に関してはいろいろと入れ知恵されているので(笑)、いつもみたいに細かくやってると、ほとんどアラ探しのようなことになってしまいそう。しかしそれは私の本意ではありませんから、一口メモくらいでさっさと終わらせようかと思います。
一通り見終わった後に感想が変わることがあるかも知れませんが、とりあえず見た順番でご紹介。
酔いどれ天使」昭和の現代劇。さすが映画の撮り方が分かってらっしゃる。風景の切り取り方とか上手いですね。正に日本におけるエイゼンシュテインですな。一般に思われている「黒澤映画」の醍醐味よりは幾分小粒でしょうが、ストーリーなどかなり好きです。ただ一点、ロシアで育まれたスタニスラフスキー・システムに慣れ親しんだ私からすると、違和感を感じるところがありました。なんだろう、これは?
どですかでん」黒澤初のカラー作品。公開当時問題作と言われたようですが、私個人としては、黒澤が従来取り続けてきたテーマから、さほど離れているとは思えませんでした。「変てこ」な人たちを撮る手法は、ここへ来て熟成された感すらあります。各登場人物のエピソードが今までより更に断片化され、それが却って、黒澤映画に感じていた矛盾を払拭することに繫がっているのではと思いました。ストーリーはかなりシュールですけどね。私は好きです。
羅生門」言わずと知れた芥川文学の映像化。いやぁ完璧ですよね(笑)映画としては文句の付けようもありません。崩れ掛かったあの門の造型が見事。隙がないとは、正にこのような映画のことを言うのでしょうが、実はただ一点、非常に残念なところがありました。これは、えぇっと・・・、黒澤監督だけの責任ではないような気がしますが、しかし全てを取り仕切る監督がそれを見落としたとすれば、そう言った責任もあるのでしょう。まあ、私はこの際目をつぶりますが!(笑)
「生きる」行政の官僚主義的体質をシニカルな視点から切り崩した作品。全くもって素晴らしい!今まで見た黒澤の中で一番おもしろかったかも。おもしろうて、やがて悲しきなんとやら。アイロニーに満ちた後半戦、お葬式の場面は見事でした。文句なしに泣けます。これを名作と言わずして、何を名作としましょうか!2時間半、全く見飽きなかった。
どん底」黒澤は時々ロシアがらみの作品を題材にすることがありますが、これはその内のひとつ、ゴーリキーの長編を時代劇として仕立て上げたものですね。原作を読んだことがないので申し訳ないです。今なら差し詰めホームレスのような人々が織り成す異様なる人間模様。後の「どですかでん」に通じる布石が、この時点で敷かれていたと言うべきでしょうか。映画の出来はともかく、そろそろミフネに見飽きて来た(笑)そういうことを言っては元も子もないのですが、良くも悪くも「またミフネかぁ」と思ってしまった作品。
「乱」言わずと知れた、黒澤のラスト作にして最大の代表作。ロシア監督グリゴーリー・コージンツェフによる「リア王」にインスパイアされて製作された作品ですね。
これ凄いよなぁ。凄いカルト映画じゃないすか!(笑)正直言って変な映画だと思いました。ロシア映画リア王は何度も見ていまして(シェイクスピアの原作は読んでないが)、それを踏まえて、黒澤のこれは前述したロシア映画のリメイクといった印象です。
役者は怪演、監督にとっては怪作。凄まじいエネルギーが持て余された、稀代のトンデモムービーでありましょうか。例えば「不思議惑星キンザザ(ロシア)」であり、例えば「散歩する惑星スウェーデン)」、もう少し(カルト的に)有名なところではホドロフスキー(メキシコ)の「エル・トポ(「ホーリーマウンテン」でも可)」の辺りに位置する作品でしょうか?
もし海外からこのような視点で黒澤映画が見られていたとしたら、日本の映画関係者は全く不本意でしょうね。もちろんこれは私の予想であり、「もしも」のお話ですから本当のところは分かりませ〜ん。
と言うわけで、いろんな意味で異常におもしろい映画でした。いや、大好きですよ、こう言う映画(笑)

@ちぇっそ@