蛇神降臨記

蛇神降臨記 (文春文庫)

蛇神降臨記 (文春文庫)

古代マヤ遺跡に秘められた秘密。人類滅亡の魔の手は既に地球にあり、世界はこれを救う救世主を待っていた!考古学者だった父の遺志を受け継ぎ、古代遺跡の謎へ挑戦するマイケル・ガブリエル。しかし彼は、ある事件がもとで11年間も精神病棟へ隔離されている人物だ。果たして彼は本当の狂人なのか、はたまた世界破滅の予言は真実となってしまうのか!驚天動地の結末があっと言わせる、稀有壮大な伝奇冒険物語の開幕!
思わず本書の紹介文にも力がこもってしまう、スティーヴ・オルテンによる長編。
既に邦訳もある「MEG」、文庫では「メガロドン」と改題された作品を読んだことがあり、海洋生物学の知識を下地とし、そこにエンターテインメント性ある奇抜なアイデアを満載させていました。
「もしも古代の巨大サメが生きていたら?」このアイデアを徹底的に練り上げた成果によって、ゲテモノ好きの読者は狂喜乱舞!(って言うか私のことを言っているのだ!)。「説得力はあるけど、とってもお馬鹿なトンデモ海洋サスペンス」にノックアウトされた記憶があります。
しかし本書もまた、「MEG」以上にとんでもないアイデアと嗜好を盛り込んで、息をもつかせぬ大冒険へと読者を誘ってくれます。
中心となるのはマヤの遺跡。そこにエジプトのピラミッドや、イギリスのストーンヘンジなどなど、世界各地に散らばった遺跡の謎が絡みついて、古代人類の壮大なタペストリーを形成するに至るのです。
もちろんこれはフィクションなので、その辺りのこじつけはかなり強引だったりするのですが、結局未だかつて解明されていない事柄故に、「作り話と分かっていても、あながち有り得ない話ではないなぁ」と、「嘘から出た誠」的な説得力があったりします。
つまりそのように読ませる作者の手腕が見事なのですが、いや実にもう、作品の冒頭から広げた風呂敷の大きさが尋常でないので、読み始めてスグに「これを最後どうまとめるのかなあ?」と、思わず心配の声を漏らす人は多いことでしょう(笑)
主人公マイケルを助ける女性ドミニクなど、途中から都合の良いように性格が変えられてしまい(笑)、かなり無理をしていることが伺えますが、こんなことなど些細な問題に過ぎません!これから分かるように、作品として破綻している部分も多少なりとも(いや結構)見受けられますが、「とにかくおもしろい作品が読みたい!」、「どんな手を使ってでもいいから俺をビックリさせてみろ!」と言う向きの読者には、たまらないカタルシスをもたらしてくれるでしょう。
予備知識として、私はマヤ創世記の神話「ポポル・ヴウ」を読んでおきましたが、これが結構に立ちますので、もし手にする機会があったなら、本書を読む前に目を通しておくことをお勧めします。古代神話に登場する人物の相関関係などに理解が深くなります。
更に言えば、本書を読む直前にたまたま古本で買っていた「世界の奇談(現代教養文庫)」でも、メキシコのアステカ文明や、ユカタン半島チチェン・イッツァ(これは特に重要)、またはアンデスインカ帝国の遺跡について書かれていました。ごく簡単なエピソードが羅列されているだけすが、必要最低限の知識が予習復習出来るので便利です。しかしこれは絶版なので、実際見かけることはあまりないでしょう。
それならばと「ムー」を購読してみるのも一興ですが(と言うか、これなら完璧)、しかしこれだと後々、日常生活に支障を来たす恐れがあるのであまりお勧め出来ないか(そんなことないですよ!)。
このように専門知識があるに越したことはありませんが、大体において各所で説明がされているので、その辺りは問題ないでしょう。この作者はサービス精神満点なので、決して読者を置いてけぼりにすることはありませんから!(でも暴走するから結局置いてかれるのかぁ)
こんなにおもしろいのに案外と話題にならないのは(翻訳出版されたのは2003年)、やはりあまりに「お馬鹿」過ぎるからでしょうかねぇ。コミカルな話ではないのに、とんでもなく壮大な空想科学の連続にゲラゲラ笑って読めること必死!
あくまで個人的趣味に留めておきますが、「これは超お勧めの傑作だ!」と言っておきます。

@ちぇっそ@