ロストロポーヴィチ 人生の祭典

ロストロポーヴィチ―チェロを抱えた平和の闘士

ロストロポーヴィチ―チェロを抱えた平和の闘士

「スラヴァ」との愛称で親しまれている世界最高峰のチェリスト、ムスチラフ・ロストロポーヴィチアゼルバイジャンの出身。妻ガリーナ・ヴィシネフスカヤレニングラードに生まれ、ロシア最高のプリマドンナとして、世界中を股にかけ驚異的なソプラノを響かせた。
ソ連時代、反体制派であったソルジェニーツィンらを支援したことから当局と対立し、妻ヴィシネフスカヤの助言もあって国外へ逃れることになる。ソ連崩壊と共に再びロシアの地を踏むに至るが、彼のパスポートには国籍「世界市民」とだけ記され、もはやいかなる体勢にも属さないと言う強い決意を見せている。
アレクサンドル・ソクーロフによるドキュメント長編。監督が生涯を追って、失われ行くロシアの風景または遺産を綴る「エレジー(祭典)」シリーズに、ロシアの至宝ロストロポーヴィチが登場しました。
「成功に必要なのは情熱だ!」との言葉通り、自由奔放で規格外のエネルギーを発散させるロストロ氏の姿がここにはあります。しかしてその情熱が波乱を呼び、ドラマチックな人生を演出させることになるのです。
しかしその人柄は今も昔も変わりなく、人懐っこく茶目っ気たっぷりな素振りでもってあらゆる人々から警戒心を奪い、誰彼となく飾らぬ付き合いを許してしまうのです。
共に歳を重ねた妻ヴィシネフスカヤ夫人の様子は、差し詰め女帝でしょうか。と思った次の瞬間、ソクーロフ監督の声で、正に「まるで女帝」とナレーションが入りました(笑)
夫人の声楽指導も情熱的。ときには血管のぶち切れんばかりに、またときには泣き出さんばかりの熱血指導。さすがロストロ氏を支えた「ロシアの母」と言った強さを感じさせます。
ソクーロフはこのドキュメントを2部に分けました。1部ではロストロポーヴィチ夫妻のインタヴューを中心に構成し、2部ではロストロ氏の弟子、小澤征爾指揮による、ポーランドの作曲家ベンデレツキの新作リハーサルの模様が捕らえられています。
2005年のウィーンで発表されたこの曲は、ロストロポーヴィチ氏にとって最後の初演となった作品です。それから氏はごく親しい仲だけでの演奏は続けても、公式の立場としては引退を表明しました。
2007年、ちょうど80歳を迎えたロストロ氏は、ロシア政府から勲1等祖国功労章を授与されました。そしてドキュメント映画が公開(ロシアでは2006年に公開)され、波乱の人生を生きたロストロポーヴィチ氏が、誰にはばかることなく遂にその栄誉を授かったのです。
ところがそれら全てを享受することを待っていたかのようにして、今年2007年4月27日にロストロポーヴィチ氏は亡くなられました。まるでこうなることを予見していたかのようでもあり、運命のいたずらと言ったものを感ぜずにはいられません。
世界はまたひとつ大きな遺産を失いました。せめて死後の世界では安らかに。師匠であるショスタコーヴィチと共に、天国でも素晴らしい演奏を響かせてもらいたいものです。

@ちぇっそ@