ロシア絵画の神髄


東京都美術館HP>
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今日は東京都美術館へ、「国立ロシア美術館展」を見に行って来ました!
サンクトペテルブルグにあるミハイロフスキー宮殿を買い入れたニコライ2世が、国内初の国立美術館として誕生させた、「国立ロシア美術館」収蔵のコレクション展であります。
ロシアの近代芸術には大きな流れがあって、正にロシアが近代化への道を歩み始めた時代に隆盛を極めた「古典主義」。それからロシア独自の表現方法を模索し始めた「ロマン主義」と呼ばれる時代。そして美術に政治的批判精神を込めた「リアリズム」の時代です。
今回は大きく分けて、この3つの時代からなるロシア芸術の変遷を辿る展示会となっています。もちろんこの後、ロシア・アヴァンギャルドや「ソ連時代(厳しい検閲によって虐げられた時代でありますが)」へと繋がるわけですが、ロシア近代芸術の基礎を作り上げた作品を中心に組まれております。ま、残りはまた後のお楽しみってことで!
それまでのイコン画などから発展してきた「古典主義」は、“静的”なイメージが強く、肖像画や風景画を主な題材とし、言ってみれば宮廷絵画のような、荘厳さと格式を感じさせる風格が漂います。
貴族がお抱えの画家に注文して書かせたものなどが多いので、突拍子もないサプライズと言ったものなどなく、昔ロシアの情景を今に伝える文化遺産と言った趣ですね。
それでは画家たちが独自の表現を模索し始めた、ロマン主義の時代へ移行しましょう。
とにかくここで圧巻だったのは、海洋画家アイヴァゾフスキーによる数点の巨大絵画。それぞれ、荒波に揉まれる客船であったり、南イタリアでの情景、または天地創造の瞬間を豪快に描いたもの、それから暮れなずむ夕日が眩しい一枚など。
嵐の海に立ち込める暗雲に底知れぬ不安を感じたり、かたや穏やかなる浜辺の様子に和んだり、ほとんど自動描画に近い正に神が宿ったとしか思えない筆跡があり、そしてこれは絵だと分かっていながらたそがれてしまう夕闇など、絵の巨大さも相俟って、まるで自分もそのファンタジーの世界へ迷い込んでしまったかの感覚を覚えます。
それこそ衝撃と畏怖を持って迎えられるべき、圧倒的な作品ばかりでした。
そしてプーシキンドストエフスキー、大作家トルストイらの登場と共に、美術の世界もリアリズムの時代へと突入します。
この頃、特にクラムスコイやレーピンをして「批判的リアリズム」と称されるそうですが、それは貴族支配の体制に疑問を持った若い芸術家たちが、力強く生きる農民の姿や、戦争で起こった事件などを題材として、ロシアの現状を訴える作品が多く描かれたことによります。
時代は正に革命へ向かってまっしぐら。国民感情は最大限にまで高まっており、彼らの描く線描のひとつひとつから、ロシアの悲痛なる叫びが聞こえてきそうで、思わず目を背けたくなってしまう作品も多々ありました。
技法としては、それまでとは明らかに違うと分かるほどリアルな筆致となり、人物の表情から建物のはね板一枚に至るまで、ことこまかに描写されるようになっています。古典主義から比べると画に「動き」が加わっており、今にも動き出しそうなほど、ある情景の一場面をそのまま切り取ったような臨場感あるものが多数描かれています。
それ故、単に批判的なだけではない、純粋な意味での芸術性の高さも極まった感があり、ロシア最大の画家と称されるレーピンに至っては、革新派の画家らしく、同時代に美術の世界に革命をもたらそうとしていた「印象派」からの影響も感じられ、華やかで牧歌的な色彩を持って描かれた作品も見受けられました。
もちろんロシア的なダイナミックさも併せ持っており、代表作のひとつである「何という広がりだ!」では、力強い波のうねりがキャンバスから溢れ出しそうで、画を前にして思わずジャンプしたい衝動に駆られました(笑)それほど躍動感が素晴らしいのですね。なるほどロシアと言う枠を超えて、普遍的に高い芸術性を誇る画家です。
またこのリアリズムを、徹底した写実主義で表現しようとした画家も数多くおり、シーシキンなどの超絶技巧を駆使した作品も並んでいました。ここまで来るとまるで写真!「リアル」って言うのは、「本物そっくりに描く」ことなんだねぇと、それだけで芸術足りえる事を実証していたでしょうか。
特に驚いたのが、スホデリスキー作による「村の昼間」と言う風景画。当時はまだなかったはずの1000万画素のデジカメで撮影し、それを約100cm×140cmに拡大した写真みたい。これ一枚仕上げるのに何ヶ月掛かったのでしょう。ロシア人の根気強さに呆れて、思わず引きつり笑いが出るほどでした。
と言うわけで、とにかく凄かったです。日本では一般的に知名度がないロシア人画家ですが(もっとも私もその一員だったが)、ある意味、モネとかセザンヌとかより分かりやすい驚きに満ちているので、「画などよく知らん!」と言う方でも、結構楽しめる展示会になっていると思います。
7月8日まで開催されているので、お暇があったらどうぞこの機会にご覧になって下さい。別に私は東京都美術館の回し者ってわけじゃあないですよ。単なる「ロシア枢密院日本支部(勝手に結成!)」からの回し者ですから!

@ちぇっそ@