ゴーレム

ゴーレム

ゴーレム

(↑これは私が読んだのより更に新装版らしい)
プラハの作家による長編。正に、幻想文学とはかくありき!と言った小説で、凄まじいまでの情熱と怪奇的な不穏さに満ちた作品です。
ユダヤ密教「ゴーレム」の伝説を下敷きとした本作ですが、基本にあるのは主人公ペルナートの自分探しの旅、ひいては彼の成長物語として読める作品です。
夢と現実が交錯し、ぺルナート自身、自分が一体誰であるのか判然としていません。彼は白昼夢の中で、彼の店に入ってきたお客になりすましてみたり、または彼の友人の大学生カルーゼクの中に自分自身を認めたり、ときには彼自身が「ゴーレム」となったりするのです。
一人称で語られる文章はさらにその不確実性を増し、読者を幻惑の奈落へと突き落とします。私が思うに、「ゴーレム」とはペルナート自身の傀儡人形であり、ゴーレムの神秘性、またはその不定形で伝説的な部分が、青春時代の青年の心の不安を表しているのではないでしょうか。
本書は1915年作で、私は1978年に新装改訳された版を読んだのですが、その翻訳の斬新さにも舌を巻いてしまいました。時代を超越した翻訳で、30年近くを経た今日にあってなお、その新鮮さを失っていませんね。
言葉を選択する自由度があるように思えるし、作品の持つ偏執的な部分が簡潔に表現されていて大変読みやすかったです。あまりに現代的な感覚のあるのが見事で、途中で何度も年号を確認してしまいました(笑)
一般的な評価では、ポーやホフマンなどに代表される怪奇幻想文学の父系に連ねられるようですが、他にも同郷のカフカドストエフスキーの「罪と罰」なども思い浮かべることが出来るでしょう。
言ってることは良く分からず、話の筋もぶっ飛んでいるので、かなり難解な印象のある作品ですが、そのわけの分からなさがとてつもなくおもしろかったのです。悪夢の町プラハで巻き起こる幻想を思い切り楽しめました。傑作、いや衝撃作でありましょうか。

@ちぇっそ@