渚にて

渚にて―人類最後の日 (創元SF文庫)

渚にて―人類最後の日 (創元SF文庫)

中国とソ連の摩擦が引き金となり第三次世界大戦が勃発した。それは核戦争を引き起こし、無数の原子力爆弾が至るところへ炸裂したのだった。戦争は短期間で終結したものの、それによって北半球は壊滅、汚染された灰が降り注ぐ死の大地と化した。アメリカ海軍所属の潜水艦スコーピオン号は、汚染地帯を避けてオーストラリアまで南下していた。再三に渡る調査にも関わらず、もはや北半球に生存者は認められなかった。そして汚染された灰は、今や南半球にまで到達しようとしていた。
核戦争後の地球を描いた、ネビル・シュートによるSF長編。
世界の終末を生きる人々の暮らしが、ただひたすらに淡々と語られてゆく。スコーピオン号を含め、生き残った潜水艦による北半球への調査航海は一向に進捗を見せない。迫り来る死の灰を受け入れるしかない人々は、そんな生活の中で変化を余儀なくされるのです。
楽観的な予測を立てる学者がいて、しかし実際に現場を見て事実を知る潜水艦の乗組員がいる。最期のときを、自分の楽しみだけに生きる人。気丈にも今までと変わらぬ生活を貫く人や、あるいは世界の終わりを信じることが出来ず、普段通りの暮らしをすることしか思いつかない人など。
「大きな事件」はこの物語が始まる前に終わっており、ここには世界の終末を静かに迎える人類の様子が描かれています。
ネビルシュートの描く終末にはさしたる大混乱もなく、自暴自棄になる人もいるにはいますが、さほど破滅的な行動を取ることはありません。わりあい穏やかで、至って秩序立って語られている点に、作者の人間観を見て取ることができるでしょうか。
非常に起伏の少ないストーリーですが、人間を描くことによって終末を表現する手法には、とても読ませるものがありました。わびしいラストも秀逸。それまでの人間模様があったからこそ、この一場面が引き立つと言えるでしょう。
惜しむらくは、私が読んだのは訳がかなり古く、人物の言葉使いなどに時代を感じてしまいました。今時、年寄りでも「承知のすけ」とは言わない(笑)。新訳って出てるんですかね。未読の方はそちらで読むことをお勧めします。

@ちぇっそ@