ガス状生物ギズモ

ガス状生物ギズモ (創元SF文庫)

ガス状生物ギズモ (創元SF文庫)

森林地帯では動物たちの間に謎の死が蔓延していた。狩猟雑誌でライターをしているディック・レーンはその調査に向かう。そこで彼は目に見えない何ものかに襲われた!それまで家畜やら野生動物ばかりを狙っていたそれらは、やがて人間にまで危害を及ぼすようになった。見えない敵は次第に数を増し、いよいよ人類は彼らとの全面戦争へ突入する。
古典的SFの名手、マレー・ラインスターによる長編。「ギズモ」と呼ばれる謎の生物は、ガス状の物質で形成されていて目に見えない。彼らは「腐臭」をエサにしており、夜の間に家畜などの息の根を止めて窒息させ、昼間死骸が腐り始めると、そこから発生した腐敗ガスを摂取するのです。
どうです?なかなか素敵な習性を持っているじゃないですか(笑)
果たして知性があるのかないのか。それとも本能の赴くまま、彼らは無邪気にも殺戮を繰り返しているだけなのか。人類にとって未曾有の恐怖でありながら、「ガス状」と言う言葉から連想される丸みを帯びてそうなイメージが先行し、どことなくユーモラスな風貌を思わせます。
「息の根を止める」ことが彼らの常套手段ですが、これはつまり「口と鼻をふさいで窒息させる」と言う単純明快な方法によります。丸っこい生物が、人間の顔にとりついて口と鼻をふさぐ図を想像すると、なんだか「キモカワイイ」感じがしてしまうのは私だけでしょうか(笑)
この説明だけだと少しギャグのように思われてしまうかも知れませんが、そこはラインスターによる見事な筆致があり、物語をシリアスな空想科学小説へと押し上げています。太古から畏れられていた悪魔や怪異に結びつけ、ギズモと言う生物に確かな説得力を与えているのです。
50年代SFに特有のきな臭い雰囲気が漂い、日本で言うところの「ウルトラQ」のようなキッチュさが作品全体を支配しているでしょうか。いかにもな昔SFに浸れる、とても楽しい作品でした。
もしもこれを小中学生のときの自分が手にしていたら、それこそ夢中になって読みふけったでしょうね。子供の知的好奇心を、実に上手く刺激させてくれそうな予感があります。

@ちぇっそ@