死霊の盆踊り

死霊の盆踊り デラックス版 [DVD]

死霊の盆踊り デラックス版 [DVD]

次作の長編のアイデアを得ようと、夜の墓地へ向かいハンドルを切るホラー作家。彼の隣りには恋人が座っている。墓地があまりに遠く、仕方なく引き返そうとしたその時!突如車が制御不能となり、路肩に激突して事故をおこしてしまう。目が覚めた2人は助けを求め彷徨う内、いつの間にやら墓地の中へと迷いこんでいた。彼らはそこで、死霊たちによる世にも恐ろしい宴を目撃する。
脚本にはエド・ウッドも関わった、世にもカルトなB級ホラー長編。
さて困った。ストーリーが、ありません!満月の夜ごとに繰り広げられる宴。観客は「夜の帝王」ただ一人。宴を取り仕切る幹事は「闇の女王」。
女王の合図に従って、「火に命を捧げた女」、「闇に生きる女」、「黄金を崇拝した女」など数々の死霊たちが登場し、帝王の前でセクシーな踊りを披露する。“ただひたすらに踊りを見せ付けられる”、そんな映画なのです(と言うか、既に「映画」とも呼びたくない)
そもそも、事故ったホラー作家カップルが車に乗っている冒頭から、おかしなことになっています。以下、特典映像である監督の製作秘話との検証でお送りします。
夜の一本道を突き進んでいるはずなのに、カットが変わった瞬間「昼間」になっている。どうやらフィルムの処理を間違えたらしく(特殊な方法を使って昼に撮り、現像の段階で夜になるように焼く)、しかしそれを修正していると公開日に間に合わないことから、“あえて”修正しなかったとのこと。
これって普通ならありえないことですが、監督をして「とにかく作品が残ったことが大事」と言わしめます。なんともフレキシブルな考えをお持ちのようですな。
事故ったカップルが2人とも路肩に投げ出されている。しかも2人並んで、綺麗に仰向けで横たわっている。物理的に言ってそれはありえないでしょう。って言うか、車はどうした?
監督の話によると、かなり予算がなかったとの弁。私の推測では、車一台を潰すお金がなかったので、「車は映さない」ことにしたのではないかと思いました。
「夜の帝王」の視線が定まらない。エド・ウッドから紹介されたと言うこの俳優。監督によると、「セリフを覚えないことで何度もケンカした」、「カンペを見ることもしばしばあった」。
と言うことは、これはつまり「カンペ」を見ているんですね、“カンペ”を!
最初、着衣のある死霊たちが、最後は裸になって踊り狂う。しかし服を脱ぐ場面はなく、カットが切り替わった瞬間いきなり裸になっている。ここに登場するダンサーたちは、ほとんどがプロのストリッパーとのこと。なるほど、それは当然予想できた。
しかし何故突然裸になっているのか、監督によると「ストリップ場面を廃し、突然裸になった方が“死霊”っぽい」からだそう。ところが世の中には「脱ぐ過程を楽しみ」にする観客も多いと思うので、これは余計な配慮だったかと。ってか、不自然だし。
「黄金を崇拝する女」の死霊を黄金で固めるシーンがある。監督によると「<007>の一場面からヒントを得た」そうだが、それって“パクリ”ですよね、パクリ!こんなところで暴露しちゃって良いんですか?
登場人物たちの意味深なカットが続くが、セリフを言わないことが多い。何故、無言?
監督によると、「エド・ウッドは良い脚本家だ」そうだが、だったらもっとその“良い脚本”を利用しましょうよ。出演者には喋ってもらいましょうよ!
徹頭徹尾、死霊たちのダンスシーンばかりで構成されている。監督によると、「私はダンスのシーンが多いと言うので、この作品の依頼を引き受けた。何故なら“簡単”だからだ!」
アンタ監督なんだから、そんな手抜きを、さも自慢げに吹聴しないで下さい!
とまあ、このようなていたらく。いや、凄い。呆れてものが言えないとは正にこのこと。作品としては「超Z級」。ストーリーは全く展開せず、見所「ゼロ」過ぎて実際に途中で寝てしまうほど。
もはや「カルト」と言う以外、何の価値も見出せない作品。パンツ一枚を履いて踊るお姉ちゃんたちを見て、「あ、俺この子が好み!」とか言って、品評会をするためだけに製作されたようなダメホラーなのです。
しかしながら、監督自身のインタヴューは非常に興味深いものであり、当時の社会情勢から、性風俗の厳しい取締りの現実が語られると、このような作品をもって検閲に引っ掛からないように、ギリギリの性描写にこだわった苦労が偲ばれるものです。
旧知だと言う、エド・ウッドとの出会い。厳しい時代を生きた映画人の抱腹絶倒なエピソードの数々は、実は特典でありながら、本DVDにおける一番の価値ある箇所となっているのです。
「なるほど!もっともだ!」と思えるもの凄く良いお話や、中には映画本来のあり方について、私と意見を一致することもあったりなどして、映画と言うものを実に良く理解している監督であることが伺えます。
しかしながら、それと映画の出来とは別!言ってることとやってるが違う。「この監督、本当に信用できるのかね?」そのように思ってしまうワタクシでありました。でもまあ、人が良さそうな人物ではあります。
どうやら「シリーズ2作目」を考えているようで(!)、次作の構想を嬉々として語っている監督。「おいおい。それって“大風呂敷”広げ過ぎじゃねぇか?」と思う私は、人間として何かを失ってしまったのでしょうか。
だって凄いんですよ。聞いた限りでは、1作目で謎だった事実が軒並み解決されて行くみたいですから。でも残された謎と言っても、それは「全て謎だらけ」なんですから、それらをたった一作で全て解明なんて、とても出来る気がしないんですけど。「シベ超」みたいに“禁じ手”を使わなきゃ無理だな、こりゃ。
愛すべき、「いい加減人生」に乾杯!

@ちぇっそ@