動物農場

動物農場 (角川文庫)

動物農場 (角川文庫)

家畜として飼われていた動物たちが反乱を起こした!とうとう雇い主を追い出した彼らは、組合を結成し彼ら自身によって農場を経営し始めた。全ての動物に平等となる社会を目指し、教育と労働に励む彼らであった。しかしやがて動物達の間には階級差が生まれ、至福を肥やす支配層と、搾取される労働者層の構図が出来上がる。理想国家がいともた易く腐敗して行く過程を象徴的に描く。
これは凄い!端的に読み解くならば、ここにあるのは、かなりあからさまなスターリニズム批判と言うことになります。しかし社会構築の普遍的な法則に則っており、ロシアで誕生した社会主義国家と言うことだけでなく、権力の横行するあらゆる社会に当てはめることも出来、それらを動物に置き換えデフォルメされた世界が展開しているのです。
レーニンによる理想国家が、スターリンによって腐敗させられる。スターリンは民衆を恐怖によって統治しようとしましたが、しかしそれに気がつき「何かがおかしい」と思いながらも、巧みな情報操作に乗せられ、従順につき従ってしまう民衆の愚かさも同時に批判されているように思えてなりません。
あらゆるものに対して「NO!」と言っているかの文章が、恐ろしくペシミスティックで、読んでいると背筋に冷たいものが走ります。支配される側の動物たちはあまりにあっけらかんとしており、ていよく権力に騙されるアホ面を晒しているように見えるのです。
実はこれが外から見た我々自身の姿だとしたら、これほど痛烈な群集批判もないかなぁ、と思うわけです。さすがウィットなブラックジョークの国、イギリス生まれの作家だけのことはあります。
この他、「像を射つ」、「絞首刑」、「貧しいものの最期」の3短編が収録されています。
中でも印象深かったのは、植民地のビルマで警察官をしている男が、民衆の期待から逃れられず、まだ健康で働ける像を撃たなければならなくなったいきさつを描いた、「像を射つ」でした。
市街を荒らしながら逃走する像。警察官の男は「像使い」が現れるまで待って、これ以上危険の及ばない限り、手を下すつもりはなかったのです。しかし「像殺し」の場面を期待して、彼の後から付いてきた民衆による無言のプレッシャーから、像を撃ち殺してしまう。
これは「支配者は支配される者によって支配されている」と言う逆説的な状況を描いていて、権力者は権力を行使することを期待されており、またそこから逃れることの出来ないことを示しているのです。頭の良い子が必然的に、学級委員長に任命されるのと似ていますね。
かようにして、他の作品にもすべからずペシミスティックな精神が宿っており、作者のともすれば卑屈なまでの人間不信が伺える部分でありましょうか。
かなり歪んだ作品ですが、だからこそおもしろいとも言えます。自分こそひねくれ者だと自負される方は、オーウェルの作品を一度読んで、自分とどちらが卑屈か比べてみるのも一興でしょう。

@ちぇっそ@