独ソ大戦車戦

独ソ大戦車戦―クルスク史上最大の激突 (光人社NF文庫)

独ソ大戦車戦―クルスク史上最大の激突 (光人社NF文庫)

先日のクルスク大戦車戦に続き、再び独ソによる史上最大の戦車戦をお送りします。と言いますか、これは先のクルスク大戦車戦の著者が参考にした文献のひとつでもあります。
スターリングラードでの大勝利に沸き立つソ連軍は、このままドイツ軍を駆逐出来ると確信し、ウクライナにはびこるドイツ軍掃討のため突き進むことになる。しかしこの楽観的な戦略が思わぬ誤算を生む。部隊があまりに早く進行し過ぎたため、ソ連軍を支える補給線が伸びきってしまい、物資の供給がままならなくなったのだ。ドイツ軍の名将マンシュタインはこの期を逃さず、ゴリコフ大将率いるボロネシ方面軍と、バツーチン大将率いる南西方面軍の間に広がる、手薄になった地帯めがけて反撃を開始する。ドイツ軍によって制圧されたその都市は、過去2度に渡って独ソ両軍が攻防を繰り広げたハリコフだった。
クルスクは奪取したものの、その下方ハリコフの戦線を押し戻されたため、こうしてモスクワの南に「突出部」を形成してしまったのです。
本書ではこのように、クルスク突出部が形成される詳しい過程から、「クルスクの戦い」が事実上終結する、現在ウクライナの首都となっているキエフ奪還までの攻防が語られています。
簡潔な文章でこの大戦の全容が一望でき、図解も非常に分かり易くて、当時の戦況の様子が手に取るように把握出来ます。そして何より、モノクロの文庫文サイズではありますが、多数の写真が盛り込まれ、戦場の過酷さを克明に伝えてくれます。
森林を突き進むソ連の戦車隊、黒鉛を上げて炎上するドイツ軍のティーゲル戦車。ソ連兵士のわずか数十メートル先で炸裂する地雷原、敵の猛攻にたまらず塹壕でうずくまるドイツ歩兵など。それらの記録写真は戦闘の生々しさを宿しており、正に戦慄すべき瞬間の数々を目の当たりに出来るでしょう。
ドイツ軍は撤退しながらも、ソ連軍の有利となる物資が存在しないようにと、全てを焼き払いながら退却して行ったのです。この「焦土作戦」によって工業地帯はもとより、一般の民家からが全て灰に帰しました。
しかしソ連にとっては、これらの都市が持つ象徴的な意味合いこそが大事であり、これによって士気の上がった兵士たちは「いざベルリンへ!」と志を新たにし、そして戦いの主導権を握り始めるのでした。
正にソ連にとってのターニングポイントとなった決戦であったわけですね。

@ちぇっそ@