クルスク大戦車戦

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(画像がなかったので映画のほうで)
青木 基行〔著〕
出版 : 学研
発行年月 : 2001.5


第三次ハリコフ攻防戦において、再びドイツの手に落ちた都市ハリコフ。それによって生じた「クルスク突出部」。ドイツ軍は重要な戦略拠点として、「目の上のたんこぶ」を取り除くべく、クルスク目掛け総力戦を挑む。
クルスクとは、モスクワの南方約530kmにある平原地帯。ここでかつて第二次大戦のころ、独ソ両軍によって史上最大の戦車戦が繰り広げられたのでした。
「突出部」とは、敵対する軍同士がまみえる境界線、つまり「戦線」が蛇行し飛び出している地帯のことを言います。この「こぶ」のように飛び出した場所を根元から分断し、敵軍を退却できないように包囲してしまえば、一気に広大な範囲の制圧ができる。
すなわち「突出部」とは、自軍陣地に攻め込まれた跡でもあるのですが、同時に敵の弱点ともなり得る戦略拠点なのです。
ドイツ軍によって計画された「ツィタデレ作戦」。これは正にクルスクを奪取するための総力戦であり、後のソ連軍によるベルリン陥落、そして大戦終結への布石を敷くこととなった、ある意味で予言的な決戦であったと言えるでしょう。
先ずは、作戦を事前に察知したソ連軍の砲撃から始まる。不意を突かれたドイツ軍だが、すぐさま体制を建て直し、これまで数々の戦歴を打ち立てて来た得意の「電撃戦」へと転じる。
ところが鉄壁の防衛陣地を敷いたソ連軍によって、ドイツ軍はその侵攻を阻まれる。しかし名将マンシュタイン指揮による猛攻で、ソ連軍最新鋭戦車「T-34」は次々に撃破されて行くのだった。
一時はソ連軍陣地に深く切り込んだドイツ機甲部隊だが、消耗戦の様相を呈してきた戦況の中、事態は次第にドイツ軍に不利な形勢へと傾き始める。
そこへ連合軍による「シチリア島上陸」の知らせがもたらされると、ヒトラーは前線の指揮官達を呼び集め、クルスクでの兵力削減を決定する。これにより「ツィタデレ作戦」は事実上、志し半ばにして中止の運びとなった。
燃えますね!著者の扇情的な描写と相俟って、読んでいると何かこう、熱いものがたぎって来るようです。
しかしながら、どうやら典型的な「軍事ヲタク」である様子の本著者。専門用語が頻発すると言った意味では、このような軍事研究において避けては通れぬ宿命ですが、何よりその特徴的な文章が読み難さを露見させていると言うか。
何かにつけて、「〜だった。が、何々だった」となってしまう表現がとても気になります。普通に「しかし」だの「ところが」で、スムースに繋げていけば良いと思うのですが、常に“劇的“となる描写ではちょっと困りもの。
例えば、「今朝は晴れていた。が!夜は雨が降った」それってそんなに劇的?とか思っちゃう。文章自体に稚拙な感じは受けないし、詳細な説明は本書がれっきとした「研究書」として優れている点ではあります(専門的になるので必然的に読み辛くはなる)しかし、初めは少しおもしろがっていた私も、次第に失笑を覚えるだけになってしまいました。
それから、折を突いてやたらとソ連時代の大作映画「ヨーロッパの解放」を引き合いに出すのも引っ掛かるところ。この映画は史実に基づき、当時の戦闘の様子を細部に渡ってリアルに描き出してみせた、約8時間及ぶ空前絶後の一大戦争スペクタクルです。
「映画ではここが違っている」など、文献と作品の違いを指摘しているのですが、映画はあくまで映画なので、娯楽を優先させた部分や、単に端折っただけのところもあるでしょう。
著者は更に、「製作された時代背景が関係し、都合の悪い事実を捩じ曲げて映画が脚色されている」としていますが、これとてかなり穿った見方であり、実際の戦争と比べること自体がナンセンスかと思われます。
「こんな興味深い映画があります」くらいに留めておけば良かったのに、ねぇ。
と言った具合に諸所の問題点はあるものの(笑)、個人的には決して悪書とは思えず、いや、人によっては確かに悪書となり得るでしょうが、戦争に対する思い入れたっぷりの文章は、軍事ヲタクの愛情がこもった熱意に溢れていて楽しいものでした。
但し、本著者のひいきはドイツ軍のようであり、私とは反目し合う立場(笑)とは言え、ドイツ軍は尊敬に値する部隊であり、大国ロシアに真っ向勝負を挑んだ心意気には「敵ながらハラショー!」と称えたい!
弱冠「トンデモ本」の臭いが漂っていますが、私のようにロシア映画が好き過ぎて、気が付いたら戦車が好きになっていた!こんな人間ならば、結構楽しめる一冊ですよ!

@ちぇっそ@