魔法

魔法 (ハヤカワ文庫FT)

魔法 (ハヤカワ文庫FT)

車載爆弾によるテロに見舞われ、瀕死の重傷を負った報道カメラマンのリチャード・グレイ。彼は事故によるショックで数週間の記憶を失い入院していた。そこへかつて彼の恋人だったと言う、スーザンが現れる。彼女の出現により、グレイの記憶はすっかり戻ったかに思えた。南仏でのバカンスの思い出が鮮明に蘇る。しかしスーザンの後ろには、昔の恋人ナイオールの影がいつも付きまとうのだった。どこまでも彼女を付回すが、決して姿を露にしない忌まわしい亡霊のような男。衝撃のラストが待ち受けている。
英国の鬼才、クリストファー・プリーストによる幻想的な巨編。以前に作者の処女長編に当たる「逆転世界」と言うSF作を読んだことがあり、非現実的なパラレルワールドをいかにもリアルに描いてみせることの上手な作家だと思いましたが、本作もその例に漏れず。
「逆転世界」は、正にセンスオブワンダーに満ちた奇想天外SF。本作はそれよりもより現実に即していて、日常生活の中で巻き起こる眩暈にも似た幻想があります。
ちょっと複雑な三角関係があり、その中で展開する男と女のロマンスがある。男女の駆け引き、人物描写にも長けていて、それだけでファンタジックな大人のロマンスとして楽しむことが出来るでしょう。
ところが!「騙り」で翻弄するプリーストが仕組む驚天動地のラスト。きつねにつままれたような結末に、「してやられた!」と思うこと必死。
こういった作品はストーリーをご紹介できないんですよね。ずべてがネタバレに直結してしまうので。後はもう読んで頂くしか手段がないのですが、私のように「洒落たことしてくれるねぇ!」と大喝采する人間もいるかと思えば、「今までの感動がもう台無し!私の読書体験返して!」と憤慨する方もあるかと。
そこら辺は個人の読書嗜好に掛かっていますので、すっかり私の感知するところではないのですが、ちょっと変わり者のブックジャンキー諸氏には、是非とも一読して頂きたい傑作であるとだけお伝えしておきましょう!
一体何が起こるのか?ちょっとだけヒントを出すとしましょうか。
デヴュー作「逆転世界」では、「移動都市」と呼ばれる巨大な居住区が、線路を伝って地上を突き進んで行きます。何故「移動」しなければならないかと言えば、それは移動しないと時空の歪みに捉えられ、現行の時間に生きられなくなってしまうからです。つまりは、都市のある周りにしか世界が存在していない状況であると言えば、少しは理解できるでしょうか。
それが本作では、「物語」が存在している場所が問題になるのです。移動する都市に置き去りにされるように、「物語」に置き去りにされてしまったらどうなるでしょうかねぇ?それは読んでのお楽しみ!
おっと、かなり大胆なヒントだったでしょか。それとも余計に分からなくなった?
コアな本読み者でないと、ちょっと理解に苦しむエンディングとなるかも。そんなあなたに、本作を読むための準備運動的な叢書の御紹介を少々。
エリック・マコーマック「パラダイス・モーテル」、または、アドルフォ・ビオイ・カサーレス「モレルの発明」、更には、パトリック・マグラア「グロテスク」なんていかがでしょうか。
先ずはここら辺りを読んで、現代生活で凝り固まった脳内神経を、柔軟に保っておくことが重要となるでしょう!
それでは、SEE YA!

@ちぇっそ@