濱口イズム

後ろに濱口がっ!?

近所のコンビニに、よいこの濱口に似た店員がいる。今夜はバンドの練習をしてきた。帰りが遅くなったので、コンビニで夕飯を買うことにした。商品を手にし、列の後ろに並んでいると、隣のレジに店員が入った。「っらっしゃ〜い!〜っつぎのかた、〜っぞォ!」並んでいるのは私一人しかいない。首をかたむげ、<−そっちへ行ってはいけない!>と思いながらも、半ば名指しされたような状況で逃げるわけにはいかない。仕方なく、私はそちらのレジへ向かう。<−“濱口”だ。濱口店員だ!>どの角度から見ても、まごうことなき“濱口店員”に迫るにつれ、私は引きつる頬を凝られきれなくなっている。<−笑うな!ここで笑ったら、俺の負けだ!>“笑い芸”は濱口の十八番であって、私の持ちネタではない!そう言い聞かせるも、「っぞォ!、っまたせしゃーしたァ!」声、しぐさ、イントネーション、どれをとっても濱口だ!彼がそこに存在するだけで、笑い袋の紐は引かれっぱなし。かつて、私は何度も自分を納得させようとしたことがある。<−こいつは本当に“濱口”なのだ。きっとテレビのロケかなんかで、視聴者人間性クイズをやっているんだ!きっとそうだ!>それは絶対絶命の危機的状況を打破するために、私が思いついた回避策だった。しかし、それはむしろ自らの首を絞める役割を果たし、笑いのドツボ、笑いの無間地獄へと私を誘うこととなったのだ!<−ああ、ホントの濱口だったら、“もっとおもしれぇじゃねぇか!”>と言った具合に。危うく死ぬところだった。危く“笑い死ぬ”ところだった!だが、今日の私はよく耐えた。何度見ても馴染まないのだ。何度見ても“濱口”なのだ!出口を過ぎた私は立ち止まった。しばし勝利の余韻に浸る。ところが次の瞬間、それまで頬を硬直させていた顔面の筋肉が緩み、私はタガが外れたかのようにバカ笑いを始めたのだった。通り過ぎる人が私を横目にして行く。構うものか。運命に翻弄された、いや、“濱口イズム”に翻弄された男の心労など、貴様らには到底想像もつかないものなのだから。こうして私の高笑いは、夜のしじまへと吸い込まれて行ったのだった。私はひとり、濱口を背にしてその場を立ち去った。

@ちぇっそ@