星のバザール

五木寛之先生による、ロシア小説自選集を読みました。念のため断っておきますが、これは五木先生がお気に入りのロシア短編を編纂したのではなく、ロシアを題材にした先生自身の作品を集めた短編集であります!
五木先生と言えば、テレビ番組の「百寺巡礼」で案内役を務めていたのを拝見して以来、すっかりファンであります。でも作品は読んだことがなく(それって何か間違ってねぇか?)、そのタイトルに惹かれて購入した本作品集を、この度やっと読んだわけでした。
収録されているのは4作品。それら作品の舞台は、当時ソヴェートから日本へ帰ってくる客船の中であったり、政治の中心地はクレムリン、そしてときにはやさぐれた強面の男たちがたむろする、裏街道の安酒場だったりします。
男と女の別れがあり、また出会いがある。または日本人とロシア人による、言葉を越えた魂のふれあいがここには描かれているのです。
そのほとんどは1960年代に執筆された作品群だそうですが、現代にあって、多少人よりはロシア好きな私が読んでみて尚、私個人が思い描くロシアのイメージに外れるものではありませんでした。
もっとも私自身ロシアへ一度も訪れたことがないので、そんなことを言う資格などないのですが、60年代当時書かれたものが、未だこうして瑞々しいフレッシュさで迫ってくるのが嬉しいのであります!
それはひとえに、作者である五木氏が、ソヴェートと言う“国”をレポートしたのではなく、ロシアの地に根を張って生きる“人間”そのものを描いたからに他なりません。社会主義連邦は崩壊しましたが、恐らくロシア人の本質は変わらず引き継がれているのでしょう。それこそが本作品を廃れさせることなく、現在まで感動を与え続けている所以だと思いました。
「さらばモスクワ愚連隊」を読んでいる最中は、現在ロシアで問題となっている「ストリート・チルドレン」の発現を見るようで不安がよぎりました。ラストはその予感が的中し、非常にやるせない結末を迎えることになるのですが、このように、リアルな残酷さまでもが忠実に描かれている辺り、ロシアへ対する、作者の真摯なる姿勢を感じ取ることができたでありましょうか。
全編「もの凄く感動する」と言う物語ではありませんでしたが、それらは私に何かしら“影”を落として行くものでした。例えばそれは、罪悪感と言ったものを思い起こさせるように、深層心理に潜む、心の闇の部分を垣間見せてくれたからかも知れませんね。

@ちぇっそ@