「蹴りたいオヤジ」の肖像

オヤジギャグはサブイね

突然ですが、オヤジにまつわる特有の行動パターンには、いつも困惑させらることがありますね。特に年齢を限定するなら、団塊の世代に当たる親父たちでありましょうか。
牛丼屋などで、余裕を持って席が空いていると言うのに隣に座ってきたり、更に座席が空いていて店内はガラガラだと言うのに、あえて私の真正面に座ってきたり。あんたら何様!?と思うことがしばしばあります。
今朝の段階で既にそのような輩に遭遇していたのですが、帰りの電車の中、なんとそこでもそんなオヤジの習性に悩まされるハメになったのでした。
とあるオヤジの隣に座ったのですが、どうやら早い時刻から飲み始めたと思しきその中年男性は、飲酒後の気だるい睡魔に襲われこっくりこっくりとやっておりました。その隣に座っていた私の下には、すえた芥子ガスのようなアルコールのクッサイ息が漂ってきています。
シートの一番端に座っていたその中年男性ですが、こともあろうに私の方へと小首をかしげ始めました。なんか嫌だなぁと思っていると、案の定ほどなくして私の肩口へと、その“マンダム”な整髪料でベトついた頭皮をもたげて来たのでした。
ある意味、“明日の我が身”を思い、無下にこの酔っ払いを押しのけるのは気が引ける部分もあり、“まだ耐えられる範囲”であったため、少しの間執行猶予と称して様子を見ることにしました。
ところがそのオッサン、自分で気づくどころか、どんどん体重を私の方へ移動してくるではないですか。いよいよ以て耐えがたきに失し、私は突如沸いた怒りに、先ずはその中年に注意を喚起するいとまもなく、思わず握り締めてしまった拳でいきなり殴り掛かる寸前でありました。
そこはなんとか理性で抑えたのですが、このままでは埒があかないので、ググッ!と放り投げるようにして手摺りの側へと中年を押しこかしたのでした。(押しこかす@訳:押しやる)
するとそのオッサン、「すいません!」と謝ったのですが、全く、何故手摺りの方へもたれずに“人のいる方へ”といつも身を寄せるのでしょうか?オノレらはそんなにまでして人恋しいのか!
その後はギリギリの線で問題はありませんでしたが、途中で降車するかと思われた予想も空しく外れ、結局終点の本八幡まで一緒に乗車しておりました。その間、やはり気が気でなく、見開いていた「怪僧ラスプーチン」の文庫本も、オヤジの動向が気になり全く集中して読むことが出来ませんでした。
話変わって、何気なく見ていた深夜放送で、ニューヨークの地下鉄で歌うことを生業としている、ブルース・ミュージシャンの特集をやっていました。
登場したのは、御年73歳になるフロイド・リーと言う黒人ブルースマン。なんと彼は、かのジョン・リー・フッカーの親戚に当たる人物でもあるそうで、さすが響き渡る歌声はソウルの権化たる力強いものでした。
“出勤前”に必ず、近所の酒屋で50ml入りのウィスキーの小瓶を引っ掛けて行く。それももの凄い勢いの一気飲みで!
「イェイ!絶好調だぜベイビー!」
と、街中で大声出して調子付いて見せる彼の豪快さは、ニューヨークにこのオヤジあり!を地で行くファンキーさでありました。
「ブルースは悲しみ歌うんだ。赤子がミルクが欲しくて泣く、これもブルースさ!」
そう言うオヤジの表情には、悲哀と笑顔が同時に表れていました。複雑な感情を同時に表すこの顔こそが、ブルースの真髄に当たるものだと、どこかで読んだことがあります。
さてそれから、もうさすがにおとなしく寝ようかと思ったのですが、チャンネルを切り替えたところで映った深夜ロードショー、志保美悦子主演の「女必殺拳」があまりにキッチュな出来だったので、思わずほとんど見てしまいました。
拳法の達人が登場するごとに、いちいち「南半球空手チャンピオン、マリンバ!」だの、「琉球古武術、ピラカンダ!」だのと言った風に、各登場人物のキャッチコピーがテロップで紹介されるのです。
暗殺者が隣の屋根から毒針を吹き付けるのですが、アマゾンの原住民みたいな格好をして、儀式で使う極彩色の盾を持ってたらアンタ、街中で目立ち過ぎじゃないの!?人を殺める前に、アンタが通報されるでしょ!
と言った風な野暮は、「トンデモカルトアクション」傑作には無用の長物であります。

@ちぇっそ@