銀座を500円で楽しむ方法

日活アクションの華麗な世界―1954-1971

日活アクションの華麗な世界―1954-1971

今日は映画を見に銀座へ行ってきました!いえ、正確には「ロシア映画を見るために行ったのだが、見たのは日活アクションだった!(ちょっと「虎の門」風)」ってことになりますでしょうか。
本来の目的は銀座シネパトスで上映されている、アレクサンドル・ソクーロフ監督最新作「太陽」を見に行こうとしたのです。ところが劇場の前まで来てみれば黒山の人だかり。もしやと思いチケット売り場に並んでみれば、やはり私の予感が的中。なんと1時の回と2時の回で、既に座席は満席!「立ち見」はあるとのことでしたが、それはちょっとご勘弁。あえなく今日の鑑賞を諦めた次第だったのです。
休みなんだから、もっと後の回でもいいじゃないかとお思いでしょうが、私はこの後、“別のロシア映画“を見に、夕方6時には文京区は千石に居なければならない身の上でしたから。3時以降の回ではそちらの上映時間に間に合わない!そう言った止むに止まれぬ事情があったからに他ならないわけでございました。
さて、しかし。そうなると空いた時間が狂おしい!後5時間も、この貧乏人風情が銀座の街でなにをして過ごせと言うのでしょう?せっかくここまで出てきたのだから、また家へ帰るなど誠にもったいないことこの上ない。
当てもなく(いや実は少しだけあったが)、休日の歩行者天国となった銀座の界隈をひた歩くワタクシでありました。
途中、喫煙OKの木陰のベンチに腰掛け、乗り換え駅の馬喰横山で買ってきた手作り無添加パンを片手にランチ。そこから斜向かいに見えるテアトル銀座では、邦画の「TRICK 2」が上映されている最中。しかしそれには食指が動かず、口だけパクパク動かして、香ばしいデニッシュの食感を楽しんでおったわけです。
おもむろに携帯を掲げ、とある知人にメールを出す。
「時間が空いたんで、これからフィルムセンターでも向かおうかと思います」
するとまだ自宅にいた氏から、
「だったらこんなのやってるよ!」
と、わざわざ調べて返信してくれたのであります。
それでもって私が見てきたのがこちらの作品。
「拳銃無頼帖 抜き射ちの竜」
いいですねぇ。なんともコテコテのタイトル。キワモノ好きの触手に引っ掛かるセンスじゃあないですか!
と言うわけで、ロシアとは全く関係のない日活映画を見てきたと言う次第であります。入場500円だし。
主演は、本作で「日活第三の男」を印象付けたと言う赤木圭一郎。相棒には若き日の宍戸錠。そしてヒロイン役に浅丘ルリ子と言う豪華布陣。ウェスタンとハードボイルドが入り混じった、裏社会の闘争を描くアクション作品です。
早撃ちの名手「抜き打ちの竜(赤木)」は、とあるヤマで危機的状況になったところを、麻薬取引をする中国人組織にその命を救われたのだった。借りを返すつもりで、彼らに雇われてその腕前を発揮する竜。相棒には「コルトの仁(宍戸)」。2人は絶妙のコンビネーションでピンチを切り抜けて行く。だが2人は宿命に導かれるようにして、同じ“拳銃使い”として最後のカタをつける運命にあった。2人は合図と共に、お互いの胸へ向けて銃の先を突きつけあうのだった。
本作の成功を受けて、後に3作のシリーズが製作されたそうです。キザなセリフ、この日本においてありえない設定。そして、とんでもないくらいのご都合主義など、正に過剰なエンターテインに徹した傑作ジャパニーズ・アクションでした。
主演の赤木圭一郎は、さしずめ正義のヒーロー的でカッコよいのですが(実際ルックスもかなりカッコいい!)、極端に首をかしげ、常にシニカルな微笑を湛える宍戸錠が登場したときには、そのちょっとやり過ぎな感じが場内を爆笑の渦に陥れるほどでした。
もう、出てくるたんびに笑える!この極端な役作りが、主人公赤木との上手い具合のコントラストになっていたでしょうか(いや、でもどう考えてもやり過ぎ)
それにしてもこの当時の女優の色気のあること!浅丘ルリ子のキュートで可愛らしいこと!清楚で可憐でありながら、どこかに心に陰影を湛えているような、そんな絶妙な立ち回りが、男の「守ってやりたい!」感情に火を付けるかのようです。
もちろん、ハードボイルドに“ユーモア”は付き物。この私の持論を地で行くかのように、本作でも日本流ユーモアが炸裂しておりました。例えばこんな場面。
麻薬取引を完遂し、組織への帰り道をゆく赤木とその一味。しかし背後からはパトカーが尾行している。停車を求められ車を止めた彼らは、警察からの尋問を受ける。そこでヤクの袋を忍ばせた中国人運転手が、「ヤメテ!ソノ袋カエシテ!ソレ、カンケ無イネ!」と言いながら、わざと袋を破って中身を地面に撒き散らす。すると中からは褐色の粉が飛び出す。「ホラ、言ワンコチャナイ!友達カラ モラタ盆栽用ノ土ガ タイナシヨ!」
もうベタベタです。
ラストも、麻薬の大型取引現場に乗り込もうとした赤木の前に、何故かダイナマイトを積んだトラックが停車し、赤木はそれを奪って埠頭へと乗り込む。そして期待通りの大爆破!と言った具合。いたれりつくせりのアクション総合戦!
そんなわけで普段ロシア映画を見るのとは、また違った感じで楽しめた邦画傑作です。
しかしまあ、私が特に瞠目したのは、中国人ボスを演じた故西村晃氏による迫真の演技!正に在日中国人そのものを再現しており、セリフの間、訛りの微妙なニュアンスに至るまで、驚くべき観察力に驚嘆した次第です。こんなに演技力のある役者なんて、世界にもそうそういるもんじゃありません。いや素晴らしい!
そんなわけで、その後は三百人劇場へ移動。ロシア映画3本立て(!)を観て来ました。と言っても、全て短編で、結局今日観たのは長編2本分だけですから。
ちなみにそれらは、タルコフスキーの「殺し屋(殺し屋繋がりだ!)」、同じくタルコの「ローラーとバイオリン」。そしてミハルコフの「戦いの終りの静かな一日」でした!
後ろの客が私の椅子をバンバン蹴っ飛ばすんで、劇終後、思わず首を刈ってやるところでした。いま読んでいるのは、マイケル・スレイドの「ヘッドハンター」だ!
ヘッドハンティング”だこのヤラウ!

@ちぇっそ@