いたずらの問題

いたずらの問題 (創元SF文庫)

いたずらの問題 (創元SF文庫)

22世紀、そこは高度に管理された道徳社会だった。そんな中で事件は起きる。モラルの象徴であるストレイター大佐の像に、何者かが不届きないたずらをしたのだ!調査代理店社長アラン・パーセルが事件の首謀者。しかし彼には“いたずらをした事”の記憶がないのだ。果たして、彼を無意識に突き動かした動機とは一体何であったのか。道徳社会に波紋を投げかけたその事件。アラン・パーセルは数奇な運命に見舞われる。
ディックの初期作品で、サスペンス的要素を備えた小説です。どうやらディック本人も発言している通り、小説としての完成度がイマイチと言う点に関しては私も同感でした。ミステリ仕立てにするための伏線なんかが、大分とっちらかってしまった印象です。
更に言えば、登場人物の性格描写が前半と後半で違っていたりするようで、私など、時々誰が誰だか見失ってしまうことさえありました。
煮え切らないまま迎えた巻末、しかしこのラストにディック会心のユーモアが潜んでいようとは!読んでいる場所が場所であったなら、大声出して笑いながらページをめくっていたことでしょう。
言ってみれば、筒井康隆のユーモアSFに通じる馬鹿馬鹿しさ。しかしながら同時に、これからの世の中が良からぬ方向へ向かい始めているこに対して、ディックなりの社会批判が込められている作品でもあります。「高度に道徳的な管理社会」とは、つまり個人のプライバシーを許さない世界なのです。
それはまるで、共産主義者を排除しようとした「赤狩り」。もしくは粛清時代のロシアのようですが、そこに適応できない者が収容される施設(惑星)と言うのが、過去の遺物である消費社会。要するに資本主義そのものであったと言うのが、この作品を一層おもしろくする、皮肉でありながらも傑作な設定なのでした。

@ちぇっそ@