鷹の城の亡霊

鷹の城の亡霊 (創元推理文庫)

鷹の城の亡霊 (創元推理文庫)

ジョン・ウィルソンと言う名の、イギリス人作家による長編サスペンスです。
突如、主人公デーヴィッドを襲った悪夢。精神カウンセラーによる分析では、どうやら彼が幼少期に負った、悲劇的な出来事が引き金となっていると言う。悪の総督、アドルフ・ヒトラーの記憶。彼の脳裏には、おぼろげながら浮かび上がる、世界の敵となる人物の思い出があった!危険を賭して敵地へ侵入するデーヴィッド。果たして、彼を待ち受ける運命とはいかに?出生の秘密から、現代にはびこるナチスの陰謀の解明に、たった今、ただ一人の男が立ちはだかる!
いわゆるナチス物。1996年に発表された歴史サスペンス。ナチスに関するあらゆる知識、記録、または噂話などを駆使して、アメリカ大陸からヨーロッパまでを股に掛けた、壮大なるスペクタクルに満ちた長編です。
その論理の飛躍は、あくまでリアリズムに徹する作風から反して、ある種の幻惑性すら作品に与えています。しかし現実に微妙に有りえそうな風説に則し、なんとなく“そうであって欲しい!”と思わせてしまう、作者由来の騙りの上手さも、そこにはあります。
かなり胡散臭い部分もあり、またあまりに都合良く展開するプロットには、いささか眉唾的なところは否めませんが、エンターテインメントとして見事に確立されたストーリーは、決して読者の期待を裏切るものではないでしょう!
良く研究されており、知的刺激も充分に堪能できる本作は、異色サスペンスとして、好き者の間で語り継がれるに値する、ちょっとしたカルト作品として評価出来るものではないでしょうか。もし、古本屋などで見かけたら、是非とも手にしてみることをお勧め致します。
男性作家なのに、ここまで女心を理解している作家もあまりいないでしょう。人物描写も見事な、一見重々しいタイトルに見えて、実に間口の広い大衆小説なのでありました!

@ちぇっそ@