マザー、サン

マザーサンだけにお母サン!なんちって

26日に鑑賞していた、アレクサンドル・ソクーロフ監督作「マザー、サン」のリポートをお届けしましょう!
一組の親子。その母と息子は、人目を避けてひっそりと住んでいる。母の様子は、まるで死神にでも取り憑かれたようにやせ衰えていた。しかし息子はかいがいしく、病身の母の面倒を見ている。彼は尽きることの無い愛情を、惜しみなく母へと注ぐ。
時折、極端に歪曲された映像で、それがダリによる幻想絵画の趣きがありました。カメラはかたくなに傍観的で、ほとんどの場合、ひとところからの固定ショットが多様されています。
画面に映る生命は母と息子の2つだけ。世界は死に包まれ、生命の痕跡は、時折画面をかすめて行く機関車の蒸気のみ。しかしそれとて、その車内に人の存在を認めるられるかどうか、はなはだ疑わしいところ。もしかしたら列車には誰も乗っておらず、幽霊機関車が、そこのけ草原の一本道を横切って行くだけだったかも知れません。
時の経過はひたすら緩慢。どこか宗教的示唆に満ちいて、そこにはイコン画に似た神々しいモチーフが存在するよう。
私には、ラストシーンでベッドに横たわる母が、それ以前からとっくに息絶えていたように見えました。母はその瞬間に死んでしまったのではなくて、既に映画冒頭よりずっと死んでいたのではないかと。
つまり息子は、死んだ母を抱えて散歩し、また死んだ母に食事を取らせようとしていたのではなか。母親の死を受け入れられずに、自らの幻想の中で母へ語りかけ、そして母の足元へ跪いていたのだと思わせるものがありました。
その辺りは私の深読みに過ぎないかも知れませんが、非常に印象的な場面であったことは確かです。
やはりいつもの如く、「静的」でシュールなソクーロフ映画です。しかしながらそんな難解な中にあって、本作の持つ映像の美しさは他の作品と比べても格別でありましょうか。
観ている内に、それがその美しさのせいなのかどうか、「ものを考える」と言う思考そのものを消滅させるかのようです。もしかしたら、このように「思考の停止」する感覚が、信仰と言うものと近しいイメージなのかも知れませんね!
ソクーロフの中でもお勧めの作品です。もっとも、ご覧になるときは相当に覚悟して頂き、普通の映画を観るのとは全く意識を転換しておかないと、相当に退屈な時間ばかりを浪費する羽目になると思いますが!(笑)
ホントに、「絵を見る」感覚で挑戦してみてください。

@ちぇっそ@