オーガニックな食生活

雨に霞む高層ビル郡

今朝は最近気付いた、お店近くにある定食屋へと思いきって入店してみました。一体何故最近気づいたのか、どうして“思いきって”なのかは、その定食屋の店構えに原因があります。
どうみてもしがない雑居ビル(と言うのもはばかられる)風情の、相当年季の入ったコンクリ建築(もしかしたら珪藻土か?)それくらいボロい建物の一室だったのです。
しかも外から店内は全く見えない作り。むしろ人を拒むかの如き、ある種洞穴のような佇まいを見せる玄関が、ポッと出のイチゲンさんを拒絶するかの様相を呈しているのです。
どうも怪しいなあ、と思いながらも、「しおさば定食500円」のメニューにつられ、貧乏人の性に従うまま、断腸の思いでドアの取っ手をヒネってみました。
すると、店内から「どうぞ、いらっしゃいませ!」主人と思われる男性の、威勢の良い声がけたたましく響きます。そしてやはり店内は予想した通り、外光を全く寄せない窓無しの構造になっており、そこにはなんと真っ赤なビロードで覆われた、ボックス式のソファーが連なっているではありませんか!
ちょっと昼飯を食いに入ったら、そこはスナックだった!?
つまりここは、元々スナックだったお店を改造した場所のよう。これは驚きでした。
とても場違いな雰囲気に、思春期にフィリピンパブへ行きまくった(実際は単に居候先
おじさんが、スナックの女の子たちとの話題の種にする為に連れていかれた)私としても、さすがに萎縮せざるを得ない違和感がありました。
「まずいな。これでもし、飯代以外に“ショバ代”まで巻き上げられた日には目も当てられねぇな」
などと危惧する私でしたが、カウンターからは、
「ちょっと時間がかかるけど良いですか!」
と、相変わらず威勢の良いご主人の、実に人柄よさそうに話しかけてくれます。
どうやらご夫婦で経営されてらっしゃるようで、テーブル準備にいとまがないおかみさんに、「さばの塩焼きをお願いします」と、思わず小声になりながら注文を取り付けました。
さてさて、実際料理が出てくるまでしばらく掛かったのですが、その間、最近読み始めた「望楼館幻想」などを読みながら時間を過ごします。
「もうすぐ出来ますから!」
と言うご主人の声の後、入店してきた新たなお客さんは、まごうことなきスーツ姿のサラリーマン。その後も、入店してくるのは典型的サラリーマンのみ。そんな中で、このような長髪でむさくるしい、70年代ヒッピーのような私が鎮座しているのですから、傍から見たギャップは相当なものだったでしょう。
さあ、500円のさば塩焼き定食とはいかなるものか!私の目の前に出てきたそれは、皮の照りも充分に脂の乗った、実に見事な“さばの塩焼き”でありました!
わずか一切れと言うのではなく、半身の白身がドカン!と召しまして、更におみおつけには人参ゴボウのきんぴらに、きゅうりのおしんこが添えられている。一日に摂取する食材が増え2度美味しいセレクトとなっています。
味噌汁をひと口吸えば、程よい塩加減で胃に嬉しい一杯であることが窺われます。具になっている“揚げ”も、まるで絹ごし豆腐の食感を思わせるほどジュージー。どこぞのチェーン店であれば、単にオマケとしておざなりに出されるのとは一線を画す、気持ちのこもった一杯であります。正に手抜かりがない!とはこのこと。
私が入店してきたとき、大釜で炊いたご飯を蒸している最中で、金色の表面の照りが目に眩しく、吸い込む湯気が実に食欲をそそるものでありました。それをひと口、そしておしんこをひと口ほお張ると、それだけで何杯かイケてしまう満足感!これはちょっと、期待しちゃうじゃないですか!
そしてメインデッシュであるさばの塩焼きへと、いよいよ手を付けてみることにします。
おっと!思わず箸を跳ね返してしまうほどの弾力がサプライズ!塩焼きされていながら、プップリの身であることが実感されます。これはきっと、さばそのものが新鮮であることを示すのでしょう。
身をほぐし、ちょっとだけしょう油をかけ頂いてみます。
「こりゃうめぇ!」
思わず笑みが漏れる美味さ!当然、焼き過ぎて実が硬くなってしまう失態などは犯さず、香ばしくてジューシーで、とにかく次のひと口が待ち遠しい絶品でありました!
どうにも魚の食べ方が下手くそ私は、美味く裁けぬ箸先ももどかしく、はやる気持ちを抑えること必死で、悪戦苦闘しながら至高の一切れを口へと運ぶのでした。この時ほど、「誰か魚の上手な食べ方を教えてくれ!」と思ったときはありません(笑)
果たして全て食べ終え、「本当にこれで500円なのか。やっぱしショバ代取られるんじゃなかろうか」と思った私は、恐る恐るお会計へと向かいます。するとやはり、メニューの通り「はい、500円です!」と、その看板に偽りなき価格にて御代を徴収されました。
いやはや、見上げた心意気!本当にこれで500円とは。最初は、「すげぇうらぶれた店だな」などとタカを括っていましたが、本当にクオリティ重視で経営されてらっしゃる精神に感服した次第です。
見た目、ちょっとイチゲンさんは入りづらい雰囲気はありますが、さすがにこれだけ美味いお店をちまたが放っておくはずがありませんよね!いやあ、商売とはこう言うことをいうんだと大変勉強になりました。
儲け度外視でも、美味いお店には必ず人が集まる。行列など出来なくとも、良いお店は必ずや人々の記憶に残って評判を呼ぶと言うことですね。私が退店する12時少し前には、店内は近くで働くサラリーマンで一杯になっていました。
単純に美味い店だったと言うことだけでなく、今後私がお店をやって行く上で大変勉強させてもらったひと時でした。
いやぁでも本当に美味かったし感動した!(笑)ちょこちょこ行って若き常連になりたいっすね。あのアットホームな雰囲気も、田舎のスナックを思わせるフレンドリーさでしたから。
でも店を出た後の、あのなんとも言えない感覚は忘れられず。なんだか、早くも朝帰りした気分になっちゃいました(笑:それも若かりし日の罪悪感に満ちたあの感じね!)
でぇ、やはり気になったので、NO-REMORSEの閉店後にその定食屋の前を通りかかってみたら、やっぱり午後5時以降は普通のスナックになっていました(笑)昼夜兼用で入り浸れそう!(って、それじゃ本物の新宿の人にナチャウヨ!)

@ちぇっそ@