クリスマスの夜にちょっといい話 −エピローグ−

ホワイトクリスマスby白川郷

そんなこんなで、このおばちゃんに対し更に嫌悪感を増していったワタクシ。金輪際、情状酌量の余地などなし。私はいよいよ、“鉄面皮の兜”を被ることにしました。いえ、それは相手を罵倒するとか、辱めを受けさせると言ったこととは違います。そんなことしたら逆に、「これは明らかに、アタシを意識してる証拠だわ!」と、おばちゃんを調子付かせることになるからです。
完膚なき無視を決め込んだ私。挨拶はせず、例え話しかけられようとも、視線は一切合わさず。お茶を出されたら「いらない」と断り、無理くり出されたお茶菓子には、一体いかなる毒液(体液)が混入されているか知らず。従って、もらった次の瞬間に生ゴミへ直行!
今までのことはなかったことに。そして、これからのことも一切なし!あまりに気温が低いために、無菌状態となったツンドラのごとき冷徹さで、自らに迫りくる害虫駆除に勤しむ毎日でありました。
それが功を奏したか。次第に疎遠となって行く2人の関係。遂には、彼女の方から私を避けるまでに成長(?)しました。廊下ですれ違っても、極端なまでに端っこへよけるおばちゃん。伝票を“投げて”寄越す。
何もそこまで、と思える失礼さであり、既に業務にまで支障を及ぼす身勝手振りです。この私を、ばい菌のようにでも思っているんでしょうかね。まあ、それも仕方ありません。最初に彼女をばい菌扱いしたのは、私の方なんですから!これくらいの弊害は、薬の副作用と思って甘んじて受け入れますよ。
そしてある日、またしても廊下ですれ違いそうになった私たち。私は普通に、少しだけ端に避けようと進路を変えました。すると偶然、おばちゃんも同じ方向へと動いてしまったのです。よくある、2人同時に同じ方へ避けてしまって、”とうせんぼ”となるあの状況を想像してみて下さい。
前を向くと、明らかに狼狽している風の彼女。私は逆におもしろくなって、「ここはちょっと、からかってみよう」と、元バスケ部仕込みのステップでもって、おばちゃんの動きをフォローします。
遂にぶつかりそうになったその瞬間、堪りねたおばちゃんが叫んだ一言。
「ああっ!気持ち悪い!!!」
これで決定的でした。これが、私が面と向かって聞いた、おばちゃんの最後の言葉となったのです。
その後、完全に決別した私たちでしたが(再三言うが元から関係などない)、どうやらおばちゃんの方は、私たちの間を取り持ってくれた、例の平社員へと気持ちが傾いたらしく、今度はそちらをターゲットに、ストーカー気質を更に発揮して行ったのです。
その社員の話によると、本当に彼女にストーキングをされたらしく、私と同様、彼女と同じ電車で帰宅した際に、彼はその恐ろしい出来事を体験したのでした。
なんとおばちゃんは彼の下車駅で降りてきて、そのまま彼の“すぐ後ろ”を付けて来たのです!もちろん、その社員は「なんで付いて来るの!?ウチへ帰りなよ!」と、何度もたしなめました。しかし、全く言うことを聞かない彼女は、あと一息で彼の自宅へと辿りつくところだったと言います。
「あと、角ひとつ曲がったら俺んちだったよ!いきなり俺の両親と会って、既成事実でも作ろうとしたのかねぇ?もう怖いったらないよ!」
それを聞いて、すんでのところで難を免れた私は、おもわずその場で冷や汗を拭ってしまいました。
このようなことがあり、結局会社からは更迭されてしまったおばちゃんですが、どうやら、ほとんど婿探しにでも来ていたような気配があり、後から「いや、俺もなんかそんな気がしてた。だって、俺にも妙になついていたからなぁ!」と言う、上司からの証言も聞かれたのです。
次から次へと明らかにされる事実。その中で、実害をこうむった私と平社員が、お互いの傷を舐め合っていたことは言うまでもありません。
以上が、私が体験した恐怖物語の全容です。脚色こそあれど、あくまで事実に根ざしており、セリフや手紙の内容等は、私が記憶している限り再現したつもりです。歴史の裏では、常にこのような怪奇現象が巻き起こっているものなのです。
いかがでしたか、クリスマスにお届けした「ちょっといい話」。恋に“ホラー”はつきもの、ホラーにエロスは不可欠なもの!ロマン溢れるエクリチュール、現代の怪奇神話を感動的に綴ったちぇっそもっさ体験記。お楽しみ頂けたなら、これ幸いにございます。
と言うわけで、このクリスマスの間、すっかりブログばかり書いていて、社会的には何の進展も及ぼさなかったワタクシ。そんなさみしん坊な私はひとり、にごり酒で乾杯を交わすのでありました。見え辛いかもしれませんが、今日の写真はそのにごり酒を写してみました。
チアーズ!ホワイトクリスマ〜ス!」
え、なになに?ホワイトはホワイトでも、それはとんだ“白”違いですって!?これは私としたことが!どうも、すみません。すっかり酒に取り憑かれた身分なものでして。
濃厚な「白川郷」美味しく頂きました!ちなみに、後ろに写っているのは、私の家に棲み付いている“ウィスキー”の霊たちです。更に言えば、この中の5本はまだ生霊(封を開けていない)なのです。
やはりこれくらいは置いておかないと、酒飲みとして落ちつきませんよね!お後がよろしいようで!

@ちぇっそ@