クリスマスに見たいロシア映画

サンタクロースの庭

本日は特にネタもないので(笑)、「聖夜の夜に2人で見たい!」そんなロマンチックなロシア映画をご紹介しましょう!でも、惜しむらくはビデオもなんも出てないので、一体どこで見りゃいいんだ?ってことでしょうね。せめて、この紹介文だけでも読んで、映画を見た気になって頂ければ幸いです。

〜きつつきの頭は痛まない〜
1974年・レンフィルム
監督ディナーラ・アサーノワ
『森の間に、きつつきの嘴の音が響く。その音に合わせてドラムを練習する少年ムーヒン。「うるさい!」と言って、下の階から起き出して来た彼の兄は有名なバスケ選手である。衝動的に、窓から庭の池へとドラムセットを投げ込む兄。ついでに投げ込まれたのは、なんとムーヒン自身だった!ずぶぬれになりながらも池からドラムを引き上げ、体を拭くこともせずまた練習を始める彼であった。
同級生のイーラとの淡い恋物語。失敗した初デート、しかし2人でいるだけで感じることの出来る幸せが確かにあった。ところがある日、心にもないことを口走ってしまい、2人の想いはすれ違いを始める。本当は好きなのに、関係を修復できないまま、父の仕事の関係でイーラは転校して行く』
とにかく驚いたのが、その作風の抜群にお洒落なこと。ともすれば、野暮ったいと感じることもあるロシア映画とは思えないほどにスタイリッシュ。フランス映画のような洗練された趣きがあります。
主人公ムーヒン君と、同級生イーラをはじめとして、登場人物のことごとくがとても可愛らしい。それは正に少女漫画のそれであり、女流アサーノワ監督の中で純粋培養された、理想の恋愛風景がそこに展開しています。特に印象的だったのがこのシーン。
【学校帰り、ムーヒンとイーラは一緒に歩いている。「映画に行こう!」と誘うムーヒンだが、彼女はどっちつかずの態度。「じゃあここで待ってるから」と、アパートの階段で逆立ちをしながら待つムーヒン。しかしイーラは、「そんなことしても無駄よ」とばかり、足早に部屋へと駆け込んでしまう。
ムーヒンの前に現れたのは、一歳くらいになるイーラの妹。「私も待つ」と言い、出来もしない逆立ちを真似る。帰宅して来たイーラの父が「私のお姫さまは何をしているのかな」と訊ねると、ムーヒンのことを「私の恋人」などと紹介するのであった。軍人であるイーラの父は、彼女を片手でさらって行きながら「少年、なにかことづては?」と、声を掛ける。彼は一言、「早く来るように言って下さい!」と告げた。
しばらくして現れたイーラは、髪を下ろし、お出かけ用にめかしこんでいた。彼女には大人びた雰囲気が漂い、学校であるときとは全くの別人。そんなイーラを見上げるようにして眺めるムーヒンは、彼女の容姿に驚嘆しながらも、その胸のときめきを抑えることができないでいた】
ここは正に名場面でした。かく言う私ですら、輝き放つイーラの魅力に、年の差など忘れて恋してしまいそうなほど。(笑)この「きらめき」の演出、アサーノワの豊かな才能を感じます。ロシアの女性も日本女性のそれと変わらず、こう言ったきらきらする青春群像に憧れを抱くものなのかと、在りし日の甘酸っぱい気分を思い起こさせるようです。
音楽もまた素晴らしい。テーマがドラム少年だけに、ジャズやソウル、または電子ミュージックまでが、幅広く作中のBGMとして使用されています。しかもその使い方はとてもセンスが良い。使われている音楽自体はロシアのものではないようですが、70年代当時のソ連にあって、このような流行の西欧音楽を取り入れている辺り、監督自身の音楽に対する懐の深さを感じさせる部分でもあります。
個人的に、私もドラムを志す同志であり、このようにドラムにスポットライトを浴びせた作品が、しかもロシアに存在していたことに大いなる喜びを感じます。ムーヒン君の憧れは、遠い彼の地で名を馳せるモダンドラムの父、バディ・リッチその人です。部屋に張られたポスターから、彼が憧れを抱くミュージシャンが分かります。
時折挟まれるユーモアも実に嫌味のないもの。それらは、登場する人物の魅力を更に引き出すことすらあっても、決して野暮になることがありません。とにかくお勧めの胸キュン青春映画。カクテルでもビールでもなく、サイダーを「シュパッ!」と開けたくなるような、純粋でロマンティックな作品でありました!
にしても、度重なる酷使に耐え、コケすら生えてそうなムーヒン君のドラムセットが、なんとも言えない味わい深さを醸しておりました。(笑)

@ちぇっそ@