ポポル=ヴゥのように歌え

苔生した峰むき出し長雨に濡れそぼる根

仕事の疲れを音楽によって癒そうとするのか、今夜はソニーロリンズのナンバーに乗ってお届けする、ちぇっそもっさりタイムです。
一体何のアルバムを聞いているのか申しますと、駅前などでよく売っている類の、著作権切れでフリーエージェント化した楽曲を収録した、お手軽バッタもんベストアルバムです。何ゆえミュージシャンたる私が、見る人から見れば邪道とも思えるこのような廉価盤を持っているかと言えば、以前勤めていた輸入CDの卸問屋が閉鎖の憂き目に遭い、返品の利かないこれらのディスクを「もってけ泥棒!」と課長さんが言ってくれたので、喜び勇んで持って帰ったというのが顛末。
やはり“お勉強”と称していろいろと聴かねば鳴らぬ年頃でしたが、何ゆえお金がない。そんなときに只で手に入るものなどを、ここぞとばかりにひったくっておく手はまたとない!他にもいろいろあったのですが、マイルスやコルトレーンはもちろん、ベニー・グッドマンオスカー・ピーターソン、またはケニー・ドリューアート・ペッパーなどもあったでしょうか。まあ、ベタベタなスタンダードしかありませんが、地道な下地作りには充分役に立ったということでしょうか。
普段は英国のTHUNDERしか聴かないことで有名な私ですが(これ本当)、久しぶりに思い出し、とりあえず通なところを物色する気も起きなかったので(CD平積みなので探すとなると大仕事)、見える範囲で引っこ抜いてみたのがこの一枚だったわけです。
あ、いま「MORITAT」が終ったところです。今流れているのは、「I’ve Grown Accustomed To Her Face」、ムーディなスローバラードです。今夜の我が家は、まるで「北方謙三の夜」みたいな、大人の男が一人で過ごす時間となっています!
昼は、会社の40過ぎで未だ行かず後家でSEやってる天然系おばちゃんが、マイペースで仕事を振ってくれたお陰でてんてこ舞いでした。こちらの事情より自分優先。怒涛の「あれやってこれやって」攻勢に疲弊させられました。もっとも、恐カワ系(恐くてカワイイ。ちなみに実物はピグモンみたいな感じとだけ言っておこう)の不思議ちゃん気取る年増女が、午後から実家へ帰省するための前運動だったわけですが。
午後からは比較的ゆっくりと業務に励み、すると私の頭上にある空調から妙な機械音が。
「シャリシャリシャリシャリシャリ、キココココォ。シュフォォォオオオ。サラサラサラサラ、ズィ〜〜〜ズィ〜〜〜ズィ〜〜〜」
先ず声を荒げたのは、私の左斜め前にいる社員さん。
「気になりだすと、ずっと気になるねぇ!」
ああ、そうですか。実は私はそんなに耳障りではありません。どことなくニューエージ系漂う心地よいノイズ感に満ちた機械音が、まるでフローリアン・フリッケの奏でる、呪術的、宗教的な福音のごとく降り注ぐように感じたからです。
ああ、気持ちいいなあ。などと思いながら、いつもよりトランスした状態で仕事がはかどります。基本的に仕事中は音楽を聴きたくな私ですが、このようなインダストリアルなループ音なら大歓迎。ミニマルミュージックの調べが、疲労で停滞した私の脳髄を「ガシャコン、ガシャコン!」とかき回してくれるからです。
ポポル・ヴゥの「原子帰母」が頭の中で空調の機会音とハーモニーを奏で始め、「もしかして、この音の後に髪の毛が垂れてきて、通気孔から“貞子”が出てきたら嫌だなぁ」などと妄想したため、「ホシアンナ・マントラ」を斉唱する“貞子”の姿が目に浮かびました。ちょっと吐きそうになりました。
ああ、天国のフローリアンに会いてぇなぁ!

@ちぇっそ@