ゲイジツの秋

今日は東京都美術館で開催されている「プーシキン美術館展」を観に上野へ行ってきました。エルミタージュ美術館と共に、ロシアが世界に誇る2大美術館。今回はその中でも、「シチューキン・モロゾフ・コレクション」と銘打たれた、2人のロシア人蒐集家による近代フランス絵画の貴重なる傑作の数々が披露されるのです。
印象派と称される作品が中心的で、モネやセザンヌルノワールピサロの名画が立ち並んでいます。あまり絵画に詳しくはないのですが、オプションで申し込んだ音声解説によると印象派印象主義とは、それまでアトリエ内部で描いていた作家たちが、今度は外へ出て筆を握り、それまでの形式ばった技法からの脱却を図るべく行った、「色」そのものの新たなる実験の過程であったとのこと。
なるほど。大地に降り注ぐ光輝は強調され、青と橙と言うように補色しあう色彩もあでやか。点描画のような独特の筆使いもすれば、現実には在り得ない色彩で、眼前の風景を白昼夢の幻想に変えてしまうものまであります。このように事物は極端にデフォルメされ、正に時代の先進性を追及した芸術運動であったわけですね。
そして美術展はその後に発展するキュビズムやフォービズムへと、近代絵画の派生を系統化しながらその奥行きを深めて行きます。この構成がなかなか興味深かったです。美術の歴史の一端に触れる、正に秋の名画散策といった、知的な好奇心を掻き立てられるものでありました。
おもしろいのは、このシチューキンとモロゾフと言う2人のコレクターが、それぞれに全く違った視点から作品を選定していることです。シチューキンは専ら自らの選定眼に頼って、作品から湧き上がるパワーを直感で感じ取って購入しています。従ってそのコレクションには、エネルギッシュで華やかなものが多い。
例えば彼のお気に入りの画家であるマティスの絵。輪郭はくっきりしており、極力絵の具を混ぜない、色そのものの力強さが強調されています。ゴーギャンインパクトは言うに及ばず、我流ルソーの奔放さにも一目置くものがありました。
一方モロゾフはと言うと、美術に対して勤勉な彼は専門家のアドヴァイスを良く聞き、作品を体系化して集めていたそうです。そう言った意味でも、彼のコレクションは穏やかで情感溢れるものが多いでしょうか。モネ作「シヴェルニーの積みわら」、ボナール作「ノルマンディーの夏」辺りは、牧歌的で郷愁に溢れており、私も特に気に入った作品でした。
そんなモロゾフは自宅の音楽室のために、モーリス・ドニを呼びつけて壁画を製作させたのですからさすが大富豪のやることは違いますね。もっとも、ドニにとっても良きパトロンであったことは間違いないでしょうが。(笑)
そんな印象派絵画でありますが、中には異質なものも紛れ込んでおり、どこか暗い印象を残す作品も少なくありません。シャヴァンヌの「貧しき漁夫」、カリエールの「母の接吻」、レーマン「山脈」、ドラン「マルティーグの松林」などが上げられるでしょうか。
中には一見ぎょっとするようなテーマを持つ作品もあり(「貧しき漁夫」)、イコン画のような宗教色すら感じる画や(「母の接吻」)、どれも一様に色彩を抑えたモノトーンな情景で、どちらかと言うとそれらの作品郡のほうが、人間の暗い面の好きな私の心をしつこく掴んで離さない傾向がありました。
印象派とは、写実的とは対極を為すものであり、目に映った風景を見て“感じた”ものを表現する芸術。すなわちそれは、(例え人物を描かずとも)“人間そのもの”の表現であったのではないか、と感じた次第です。
恐れ多くも、こんな私が高尚な(?)美術談義などを一席ぶちかましてみました。会場で売られていたパンフを元に、オサレでブルジョワジーなセレブ気取りでお送りした名画紹介。どうです、私のことがインテリジェンスに見えましたか?でも、今日の今日までこんなことはこれっぽちも知りませんでした。
と言うわけでよくよく考えてみたら、ロシア画家の作品がひとつでも運び込まれたわけではありません。(もちろん曲がりなりにも“ロシア”の名が冠された企画に、この私が行かなくて何がちぇっそ・もっさであるか!と言う使命感から)このような由緒正しき美術展に赴き、日頃本当にセレブな生活を営む芸術ファンに囲まれる中、いささか場違いな雰囲気を感じていたワタクシであります。
しかしながら写真で見るのとは違う、本物だけが持つ輝きと言うものは確かに存在しますね。“力”のある名画の前では、あの世の何者かと、一人対峙する私と言うものが感じられました。私と絵の間にひとつの世界が出来上がり、正にそこである種の対話が繰り返されるかの錯覚に陥りました。でも、決してそれが歴史に名高い名画である必要はないと思います。あくまで自分の琴線に触れた作品であることが重要であると思われます。もっとも、ここにやってきた作品はどれも非常に価値のある作品ばかりだったのですが。
正直、人が多くてわずらわしかったのですが、名画を見るときはそのような人垣を掻き分けてでも、絵画との間に遮蔽物のない状態で独り占めしてみてください。(笑)そんな風にして自分で道を切り開いて来たあなたには、きっと絵画は何かを語りかけてくれるでしょう!
余談ですが、まるっきしバーゲン会場のような活況を呈していた販売コーナー、これって、見に来た人たちは別段セレブでもなんでもなかったんすね。そもそも本当のセレブなら、とうにロシアまで観に行ってるはずですから!
ロシアパン」ってのが欲しかったんですけど、1日限定20食ってちょっと少なすぎやしませんか!?ロシア紅茶とロシア蜂蜜(なめたら「熊」になりそう!)もかなりそそられたんですが、おばちゃんパワーに気圧されて断念してしまいました。(ってか金もない)かと言って、MAYA MAXXがデザインした、今回の美術展のナビゲーター「ロシアくん」のキーホルダーを買うってのもどうかと・・・。儲かるのが“あのおばちゃん”ってのもちょっと気が引けて・・・。そもそもまんま“ロシアくん”ってのはどうかと・・・。(でもこんな創意工夫の感じられないロシアくんって、ちょっとかわいいんですけどね!)

@ちぇっそ@