エントロピーの不可逆変化

今日の仕事はカオス!正に、混沌としたご時世に象徴される不確実性によって支配されておりました。元の始まりは、全国各拠点に一斉に配送される巨大ファイルデータの処理の初期段階で起こりました。それこそ、私がそのデータをダンロードした一瞬後に外線が入る。
「すみません。今回のデータで一件キャンセルが出たんですけど、削除してもらえますか?」
そんなクライアントからの一報でした。
−まあ、それはしょうがないよね。でも既に取り込んじまった後だから、俺はプログラムから修正することができないし、じゃあSEの人に頼んでデータ取り直してもらおう−
などと、良くある絶妙のタイミングってヤツだなと、軽く思っていました。システム担当も「あ、じゃあ。データ修正するんで待っててね」なんて、別段気楽な感じで取り組み始めました。しかしこれが、後々まで尾を引くことになる悪夢の始まりでもあったことなど、この時点で知る由もありませんでした。
後はまあ、業務の進行そのものになってしまうので、全てを洗いざらい話すことはできませんが、起きた“事件”だけを軽〜く羅列して行きましょう。
先ずは、先ほどのキャンセルデータを削除したシステム担当から内線が入ります。
「じゃあ、いま削除したから処理進めて!」
私はモニター画面に向かってメニューをバシバシとクリック&入力していると、
「ああ、ちょっと待って!いまどこまで進んだ?」
と、またシステム担当から内線が入ります。なんと削除したと思っていたデータが、実は削除し忘れており、恐らく自分の仕事っっぷりをチェックしている最中に気がついたのでしょう。今度は自分で発生させたミスを修正する手間に駆られる、“ざるシステム”の担当者でした。
さあ、そしてデータが修正されて再処理を開始します。途中まで順調に進んだプログラムの更新でしたが、ある画面でエラーが発生。少しなら当該システムの理屈を理解している私でしたので、その原因を追究するべく、担当主任(単に上司であるが、便宜上こう呼ぶことにする)に一声かけてみます。
「主任、このコードの商品。マスターデータが入ってませんよ」
コードを読み上げ、確認すると。
「ああ、ゴメンゴメン!入力し忘れた。えーっと、“いま”入れたので、もいっかいスタートして!」
メニューをちょっと戻ってやり直し、やっぱり。今度は上手く通った。
そして、甚大なメモリー消費量が発生するプログラムにも関わらず、それを処理する私のPCが、恐らくホームエディション程度の簡易なものであるため、危くフリーズしそうなほどの亀の歩みで進行して行きます。
約1時間に及ぶ発送伝票を印刷。それをもう一回処理して、やっとのことで全て揃った各帳票類を、現場の作業員が見やすく作業しやすいようにセットしている最中でした。
「あ!やっちった!」
と、声を荒げたのはなんと担当主任。一体何が起こったのか?実はなんと、“発送してはいけない商品”があったのを忘れ、本来ならばデータから外さねばならぬところを、それが組み込まれた状態で処理してしまったのでした。
そこいら辺の詳しい事情は分かりませんでしたが、どうやら、不良で納品された在庫があったらしく、納品業者が後で気付いて連絡してきたようでした。もちろん、そんな不良品をお客様に発送するわけには行きません。既にシステム上の理論在庫に計上してしまった手前、こちらで配慮するより仕方なかった処遇ではあるのですが。やはり、以前の仕事同様、外部の関係業者もこぞって我々の敵に回っている、ような予感がしました。
と言う訳で、今までの処理は全て御破算!最初からやり直しとなりました、この時点で午後4時。
そして2回目の処理が始まりました。もちろん今度こそは、キャンセルデータも削除済み、商品マスターも全て登録済みの状態。万全の状況でリスタートした、“はず”でした!
ところが悪いことは重なるもの。なんと今回の処理では、最初に出来上がったデータの件数(これを逐一確認することで、“誤って別のデータを処理”したのではないかどうかが確認できる)が違っていたのです!
キャンセルデータが削除され、マスターが整備されたので、もしかしたら件数がコンピュータの計算が最初と違っていしまったかも知れません。しかし、最終的に300件も件数が増えるなどあり得るでしょうか。いや、確かに複雑怪奇なこのプログラムを駆使しても、およそそんなことなど有り得ないのです!
大元のデータと照合をかけます。
「ああ、やっぱり。ここから先がばっさり落ちてる。今回のデータにあって、最初のデータにない依頼が入ってる。でも大元のデータからは来てるから、最初のが間違ってるはず!」
との結論に達し、すなわちそれは、この期に及んでの再々処理の予見させるものでありました。一体どこでどうやって件数がずれたのか。それは結局分からずじまいでしたが、もしかしたら私にも非があるかも知れず、それは、最初の処理時に、どこかのメニューをすっ飛ばして処理した可能性を示唆するものです。
しかし、こちらで使用しているシステムには、時に予測不能な動きを示すアプリケーションを導入していることもあり(何かは言わないが!だって大手IT企業からの査察が入るかも知れないから!)、単にプログラムの不正処理だったかも知れないのです。
だとしたら、事態は更に深刻なものとなってしまいます。だって構築したシステム事態に不具合があるとしたら、それではもはや業務が成り立たないからです。今までも処理も本当に正しかったのか?業務提携の規約に関わる由々しき事態。クライアントから巨額の損害賠償を請求されてしかるべき事態となってしまいますから!これがPCによる一括処理の恐ろしいところではあります。
しかしまあ、なんと担当主任による不注意によって発覚したこの事態。正に怪我の功名とうはこれいかに!などと呑気なこと言っている暇などなく(本人の談では、「俺のエラーがなければ分からなかったんだよ。それって、瀬戸際で抑えた俺の功績じゃないか?俺って、英雄として社内で表彰されるべきだよね!」と自分のミスを棚に上げて、自分賛歌に酔いしれてましたが)、早いところ再び正常なスタートラインに立ち返らねばならぬところ。
ええ、午後8時くらいになってましたでしょうかね。今度こそ正規のルートをデータが潜り抜けて行きます。
伝票まで全て出力、そしてセット作業の開始。
「あーぁ。せっかくいつもより“少しだけ”早く帰れると思ってたのに、今日もまたこんな時間まで残業か。やっぱ呪われてるわ、この仕事」
などど、この事務所全体の責任者でもある上司の方から洩れる、ため息とも取れる諦念の一言。全く、心躍る週末など、この業務に関わる以上は望むべくもないのであろうかと、焦燥の面持ちを隠さぬまま、私も思わずその声に同調してしまうのでありました。
そんな風にして、まるで葬式のような雰囲気漂う事務所内に響く、物言いの一声。
「あれ?これって、セットする帳票に振り分けた番号が違うじゃん!これじゃセットできないよ、こんなんじゃ現場でも作業に支障がでるじゃないか!」
これは説明して分かるものではないと思うので詳細は避けますが、普通、複数の伝票などをセットする場合、ページ数などを見て、その伝票とセットされる別の帳票が合っているかどうか確認できるわけです。通常なら、そのページ数通りにセットしていけば問題ありません。「A」と言う商品が1ページ目であったら、伝票も帳票も同商品が1ページ目になるはずですから。
しかし、頼りない私たちの助っ人に来た現場のベテランたちには、何か第六感みたいな感覚が生じたのでしょう。振り分けられたページ数が違うことに気づいたのです。「A」と言う商品。こっちでは1ページ目だが、別の伝票では14ページ目に記載されてる!と言う状態だったのです。
さあこの時点で時刻は23時過ぎ。そんなわけで、主任から私に宣言されます。
「じゃあ、ちぇっそクン。今日はタクシー拾ってね!」
終電は23時43分。駅まで徒歩で12分程度。とても23時半に終了する気配はありません。最後通告を突きつけられた私は、止む無く今週末も電車で帰ることがかなわなかったわけです。
えー、今回の原因は。かなりの間、分からない分からないと頭を悩ませていたのですが、実はこの直前にシステム担当がデータ修正を入れており、その時に、大元になるデータを“元に戻して”おくことを忘れたことが要因となっていました。(ま、また専門的に色々とあるわけです)
ここに来てそれですか!下手したらまたやり直しになるところじゃないか!実は通常事務所から出力するはずの伝票類ですが、肝心の“専用プリンタ”が印字用ドラムの消耗により完全にストップしてしまった状態であったため(インクトナーがなくて、ロシア式にトナーを振ったり叩いたりしてダマシダマシ使うのとはわけが違う!)、わざわざ別の部署に出力をお願いしていたところでした。しかしその別部署の人に、
「じゃあ、出力終ったので帰ってください。どうもご苦労様でした!」
なんて声を掛けたのが、ほんの5分ほど前。とっくに帰ってしまった彼らを呼び戻すことも出来ず、となると泊まりもありか!?非常に恐ろしい時間が過ぎて行きました。
しかし、やっと理解したシステム担当がデータを元に戻してみると?
「あ、やっぱ直った!じゃあ、これで出しなおしてオーケーにしようよ」
と、担当主任がゴーサインを下します。(これはここで出力できる帳票だった)
NGの帳票を差し替え、やっとのことで作業完了!時刻はちょうど日付が変わる寸前。
「じゃあ、皆さん。土曜日出勤になる前に帰りましょう!」
と、事務所の責任者である上司から指令が下り、やっとのことで帰途につくことが出来ました。会社ビルの一階にある24時間営業のコンビニでビールを買い、臨海公園の駅へと向かいます。
そこからタクシーを拾って本八幡へ。今日のタクシー運ちゃんは、脱サラっぽい身なりのきちんとした中年の男性が駆る個人タクシーでした。
「えー、どちらから行きましょうか。環七からがいいかな。いや、それとも浦安から回ってった方が早いか」
「ああ、いや。お任せしますよ」
「じゃあ、早い方がいいですよね」
などとやり取りがあり、後はほとんど会話もなく、なく・・・。気軽でいいな、と思ったのだが、走行してからしばらくしたとき、急に道路の状況などを話し始める運転手。
「いやあ、浦安で信号に引っ掛かっちゃうと、その後ずっと引っ掛かちゃうんですよ。あそこがね、分岐点なんです。あそこがねぇ・・・」
聞いてねぇよ、そんなこと。と思いながらも、「まあ、そういうのって良くありますよね」なんて話を合わせる私でありました。メーターを見るとまだ4千円代の前半。前回葛西からタクシーで帰宅した際、約6,700円掛かっていました。てっきり今回もそれくらいだと思っていた私は、「なんだ、まだ大分このウザイ奴につき合わされなきゃならないのか」と、表情に現れた怪訝さを隠すことをしていなかったでしょう。
とろが気がつけば、今走っている道路は、路線情報に疎い私でもそれとわかるほどに地元へ近づいていました。「え、早い?」そう思う間もなく、駅前のロータリーが見えて来ます。
「お客さん、ロータリーの方に入っちゃっていいんですね?」
もちろん、お願いします。なんて言い、会社経費なので切ってもらった領収書などを覗いて見れば、なんと4,700円!これは前回より2千円も安いじゃないか!しかも断然早い。と言う事は、前回の運転手は一体どういうことだったのでしょうかね。もしかしてボラれたってことでしょうか。もっとも、どの道経費なので関係ないのですが。
でもまあ、確かに今回のタクシーは安くて早く、かつての吉野家の標語のような出来栄えでありましたが、辿った道は平坦で変化に乏しいもの。これだったら、モナコのように街中を全てレース場に見立てたかの走行で、その見事な運転テクニックを見せ付けてくれた前回の運転手の方がよっぽどおもしろかったです!って、そんな呑気なこと言ってる場合じゃない?
いやぁ、そこんとこは経費ですから、おもしろい方が役得なわけですよ!土砂降りでしたし、深夜だから道行く通行人も気にせず、道路のくぼみに溜まった水溜まりを気にせず突っ走ってくれたスリルがたまらないのです。あれなら、たとえ7千円近く掛かったとしても許せるかなぁ、なんて!
でも個人で負担する分には、相当に切実なる問題でありますねぇ。北口と南口の違いはありましたが、それでも2千円も変わるってどういうことでしょうか。不思議です!

@ちぇっそ@