夏祭りの再来

連日に及ぶ残業。昨日の酒が残っており、気だるいまま、午前中の大半を布団の中でごろごろと過ごしていた。
すると外から威勢の良い掛け声が聞こえて来た。窓から顔を出すと、アパート下の道路に、先ずはちょうちんを掲げた先頭集団がやってきた。そして、続いて神輿が現れる。
今日は、3年に一度という、八幡祭りが本番を迎える日である。
数週間前から、町のいたるところに張り紙がだされ、この日が祭りであることを告げていた。
長年この町に住んでいるが、今年までこの祭りが3年に一度であることを知らなかった。当然、地域の町内会とも交流がないので、先達たちの話など聞くこともなかったからだが。
お陰でなんとか目が覚め、重い足を引き摺って昼飯でも食いにいくことにする。
会社で「お茶を入れるための、マイカップを持ってきて欲しい」とのことだったので、100円ショップで陶器カップを購入。それから、その近くのラーメン屋へと足を踏み入れる。
初めて入る店だった。実に下町風情溢れる店内は、丈の低いカウンターがぐるりと「U」の字を描く格好で取り囲んでいる。
世話好きの近所のおばちゃんが注文を取りに来る。気取らないこの雰囲気、おばちゃんは顔見知りのお客と喋っており、ざっくばらんな座談会のようなことになっている。
初めて入る店では一体何がお勧めなのか分からないので、とりあえずはスタンダードにしょう油ラーメンを頼む。そうして出てきたラーメンは、完膚なきまでに普通の中華そばと言ったものだった。
決して不味いわけではなく、少し熱めのスープが、弱冠アルコールの残る喉に心地よく響く。クーラーの効いていない店内で、汗をたらしながらほお張る麺も、なかなかオツなものである。
ディスカウントの酒屋でビールのパックを買う。そのままぶらぶらと駅へ戻ってみると、ロータリーにはちょうど神輿が入ってきたところ。いい具合のところに出くわしたものだ。特に用事もなかったので、しばらくその様子を眺めて行くことにする。
大人の神輿に続いて、子供たちの縮小版サイズの神輿が通る。更にその後ろからは、また数台の山車が続いている。
私と同じように立ち止まって見て行く人や、特に目もくれず、急ぎ足で駅の階段を駆け上がってゆく人。自分の子供の雄姿を収めようと、カメラ片手に奔走するお父さんの姿も見られる。
祭りは参加してこそなんぼの世界である。あの輪に入って一体化することによって、トランスが生じるのだ。
傍で見る人にとっては、さほど感心を起こさないのかも知れないが、まあこう言ったものは縁起物だし、時間に余裕のあるときにはアトラクションのひとつとして楽しむことができると言うことか。
今日は暑い。先週辺りは少し肌寒いくらいの気候だったのに、週末にかけて気温が上がり、日曜日の今日はまるで夏が戻ってきたような日本晴れ。よほど先ほど買ったばかりのビールを開けて、物見胡散に興じようかとも思ったが、さすがに人の目が気になる状況でもあったので、それは差し控えることにした。日陰に入ってやり過ごす。
山車の最後の列が通り過ぎ、私もそろそろ帰ろうかと思ったのだが、ロータリーを出てからどこへ向かうのかがどうしても気になり、先頭の神輿が曲がって行った道を先回りしてみることにする。
どうやら、側道にある商店街に突入していったようだ。私が曲がり角に差し掛かった時には、同じように先頭集団も角へやってきたところだった。
ここから今度は右折し、駅の反対側へと出るわけか。それだけ確認して、私はアパートへの帰途についたのだった。
明日からはいよいよ秋の気配が強まるようだ。今年最期の夏祭りだった。

@ちぇっそ@