「君のオリモノはレモンの匂い」〜ゴキブリコンビナート本公演〜①

さあ、昨年のちょうど今頃、約1年ぶりに開催されるゴキコン本公演!奇しくも開場は昨年と同じ新宿タイニイアリス。出演する公演地を軒並み出入り禁止となる中、奇跡的に同じ会場を使用できるという幸運に見舞われた我らがご本尊!勝手知ったる台所となったタイニイアリスで、一体どのような舞台を見せてくれるのでありましょうか!?
5年ぶりの額縁公演となった前回とはうって変わり、今回はゴキコンお得意のフリースタイル様式。オールスタンディングと銘打たれている本公演は、“何かあった時”には逃亡可能。見に来たお客さんにとっても正にフリースタイルなのである!
7時半の開演時間より15分前、タイニイアリス脇の路地に整理番号順に整列された。私の整理番号は91番。後続を眺めてみても、私より前に並んだ人数より多少少ない程度。恐らく、今日の入り数は180前後ではないかと予想される。
前回は額縁形式ということで、「普段より弱冠危険度が少なめ」といわれレインコートの支給はなかった。しかし通常の舞台形式である今回、更なる危険が伴うとされる公演に向け、マジもんでレインコートが手渡される。やにわに訪れる不安と緊張感。果たして私は無事に、ここ新宿より帰還することができるのであろうか!?
どうやら私のすぐ前にいる人物はゴキコン・エキスパートであるらしい。劇団員と顔見知りであることから、それが推測される。彼の動向を注目しながら、レインコートを羽織るタイミングを見計らう。整理番号順に呼ばれる列。おもむろにコートを羽織る彼。どうやら“中に入ってから”では、レインコートを羽織っているヒマ(もしくはスペース?)がないようだ。これはマジやばそう!
そして遂に私の番が呼ばれ、羽織ったレインコートのボタンをはめながら、タイニイアリスへの階段を下ってゆく。受付の女性にチケットを渡し入場してみると、なんとそこには私の想像をはるかに凌ぐ、想像を絶する光景が拡がっていた!
丸太切りっぱなし。太い切り株がそのまま残ってしまっている、無骨な丸太が組み上げられ、さながらハリウッド進出以前、チャールズ・ブロンソンが就労していたかのような、容赦なき3Kと思しき炭鉱採掘現場の姿であろうか!
床には泥水が敷き詰められ、天井からも滴る水滴の数々は、タルコフスキーの得意とする3つのモチーフ、「火」「水」「風」の内のひとつを現したかのようである。差し詰め遺作、「ノスタルジア」の一場面を彷彿させるもであったことは、あえて天国のタルコに捧げる記述として記しておこう!
にしても、足場が悪い!中央ステージを囲むようにして囲まれた観覧席。ムチャリブレ系のコロシアムスタイル。これで「オールスタンディング」とはよく言ったもの。私が陣取った場所について言えば、足元は空疎に組まれた丸太しか存在していない。これでも“足場”であると平然と言ってのけられるのは、「鳶」意外にいるわけがない!ああ、こんなことなら私も「ガテン系」でありたかった!
既に空調は切られ、たったひとつの裸電球と、樹の腐った臭いともなんとも言えない異臭漂う会場内は、さながら世紀末の様相を呈している。例えるなら、J・G・バラードの「狂風世界」か「燃える世界」のそれであり、また言うなら、トマス・M・ディッシュ「人類皆殺し」の巨大植物の根が張った地下壕のようである、というのは、分かる人だけ分かれば良いとする私の怠慢の為せる業である!
そして、しばらく後、遂に本公演「君のオリモノはレモンの匂い」の幕が切って落とされたのだった。
ハピネス溢れる音楽にのって登場したのは、セロトニン瘍子とスガ死顔扮するカップルである。スガの役名は“ツヨシ”、残念ながらセロトニン女史の名が何であったかは失念してしまった!
二人は新婚旅行の真っ只中。手をつなぎ、楽しげに渡り歩く2人。ここはそう、先ごろ世界遺産に指定されたことで知られる“某国立公園”。鹿が大繁殖して住民が大変なことになっているという、H海道のとある景勝地なのである!
新妻は眼帯をしている。彼女の身に、何かあったのだろうか。それはこの後明らかにされる。2人は楽しい新婚旅行を満喫している、と思ったら、よく見たらこんなに見すぼらしくて貧しい土地にやって来たと気づいた新婦!
「アタシは“ハワイ”とかに行きたかったのよォ〜!」
ここが国立公園だって?こんな辺鄙なだけの土地がァ?ただただ「すまない!」と言うしかない夫。しかしそれも仕方がない、海外へ旅行するそんな大金なんて工面できない。だってツヨシは、小学校に勤務するしがない用務員でしかないですから!
誇大広告に騙された無垢な新婚夫婦を更なる悲劇が襲う。
そこへ現れたのは地元の原住民。(?)我らが病気マンを筆頭に、スピロ平太他が登場する。いかにもガラの悪そうな彼らは、「木こりA.B.C!」病気マンはせっかく生え揃った頭髪を、ストレス症の円形脱毛症のごとく“まだら”に刈り取っている。公演のある4日間の間、一体どうやってコンビニまで買い物に行くのだろうか?もしあれが自分だったら、とてもこのまま外出するなんてできやしないぞ!
「金目のもの寄越せェ〜!」
新婚ホヤホヤの2人にからむ木こり集団。
「やめろォ〜!やめてくれェ〜!」
そんな叫びも空しく身ぐるみ剥がされる哀れな夫婦。殴られ、投げ飛ばされ、泥水跳ね飛ばしながらのたうちまわる2人。その被害は見ている者にも襲い掛かる!飛び散る泥水中には、杉っ葉や木片までもが含まれている!
「オマエらァ〜!そんなことしてねぇ〜で、働けェ〜!」
と、ここで割って入ったのは奇怪な容貌をした山男。獣皮のベストを羽織り、目玉は飛び出し鼻は異様に肥大している。この不気味な風体の男が登場したのは、正に私が陣取っていた場所の真上。ちょうど頭上に“手摺り”のような感じで組まれたセットを伝い、猿か蜘蛛のごとく忍び寄っていたのだった!
どうやら、ここは「役者たちの通り道」になっている模様。なんてことだ!いくらオールスタンディングだからって、これじゃ逃げられないんですけどォ〜!
そうして颯爽と現れた彼でしたが、木こりたちはお構いなし。むしろ彼を捕まえ、「このメクラがァ〜!」と罵って見せる。完膚なき人種差別。殴る蹴る!殴る蹴るの暴行!昨今高校生によるホームレスに対する虐待が後を絶たない社会情勢を突いているよう!郵政改革の前にこういうのを何とかしろ、どこぞの首相さんよ!
虐げられる“メクラ”の山男。しかしそこで更に闖入者が入り込んでくる。
「お上ィ〜!旅館のお上じゃないかァ〜!」
颯爽と登場したのは、新婚夫婦が宿泊する宿の女主人。木こりども蹴散らし、“メクラ男”を助ける。そして新婚夫婦に語る真相。なんとその“メクラ”は、かつて木こり共の師匠であったのだ!
病気マン他が、斧や“マキタの電ノコ”を使って木を切ろうとしても(つーかホントに電源入ってるよ、アブネー!)実は彼らは木の切り方を知らないのだ。以前、彼らに指示を出していたのは、何を隠そう今はメクラの“棟梁”だったのだ!
過酷な労働を強いる棟梁に我慢出来ず、謀反を起こした弟子たちが反逆。メクラとなった彼は木こり共の奴隷となってしまったのだ。そして昔の棟梁は、唯一効く“鼻”を使って、「ボリボリ菌株」というキノコの一種を採取させられている。さながらトリュフを探すブタのようにこき使われていたのだった!
そんな回想が終った後、結局夫婦は陵辱されてしまう。夫はパンツ一丁となり、新婦など胸も露となり、股間とて一糸まとわぬあられもない姿で逃げ惑う!組み木の上を徘徊する彼ら。気がつけば、セロトニン女史の股間が私の目の前で御開帳!と、最初遠めで分からなかったものの、さすがにそこは放送禁止事項。(既に関係ない気もするが?)その股間は“ガムテープでしっかりと封印”されていたのだ!剥がすとき、痛そう!正にトーチャー!
そして喧騒は過ぎ、旅館で一息付く夫婦。しかし新婦は疑問に感じていた。夫が用意していた“コスプレ”の意味とは?嫌々ながら、夫を喜ばそうと準備した健気な新婦。彼女が浴衣剥ぎ取ると、その下から現れたものは!
「おお、お前!ありがとうよ!俺は猛烈に嬉しいぞォ〜!」
そこには「3−2」、つまり3年2組と名札の縫い込まれた、“スクール水着”が燦然と輝いていた!そう夫ツヨシはロリコン!まごうこと無きロリコン!さあ、これで心置きなく初夜が迎えられる。めくるめく愛の営み。僻地へやってきた、そんな些細な過ちなどは一気に吹き飛ばしてまおう!
夫の喜ぶ姿に安堵する新婦。しかし、そこで告げられる夫からの衝撃の真実!ほっとした彼女を一瞬で地に落とす、夫の一言であった。

〜続く〜

@ちぇっそ@