ラストパーティ 〜in はるまげ〜

約1週間滞在していたナンスローターのメンバーとも今日でお別れ。私は本日、彼らを空港まで見送りに行って来ました。
一先ず、はるまげ宅に集合するため、本八幡まで迎えに来てくれるというブラッドバス氏のお言葉に甘えて、私は京成のロータリーで待ち合わせをすることになっていました。しかしそこで、時間に合わせて自宅を出発しようとした私は、彼らに渡そうかと思っていたMORQUIDOのデモテープをダビングし忘れていたことに気がつきました。
これはまずいと思って、とりあえずカラーコピーしていたジャケと、実際の音源を持って取り急ぎ部屋を出ました。あわよくば、はるまげ宅でダビングできないものかと思ったのです。
待ち合わせ場所に向かっているとブラッドバスからメールが入り、「あと15分くらいで到着する」とのこと。少し時間があるなと思った私は、そういえば待ち合わせ近くの電気屋でダビングをしてくれる店があるのを思い出しました。
すかさず店内に駆け込んで訊ねてみますが、なんとダビングには2日かかるとのこと。実はその場ではやっておらず、別のところへ委託を出すのだそうです。それで仕方なくダビングの件は諦めることになってしまいました。実際問題はるまげ宅に着いてからでは、便の出発時間に間に合いそうになかったものですから。
さて、はるまげ宅に到着してみると、そこには某Tim氏が(笑)。そこで彼と合流して近所に泊まっている、メンバー及びはるまげ氏を迎えに行きます。そして全員集合。既に身支度を整えたメンバーと共に、はるまげ宅経営の喫茶店にぞろぞろと入店しました。
昼飯でも食べようということになり、宅配ピザをご注文。Lサイズ3皿が到着するまでの間、皆でわいわいと座談会の席で盛り上がります。と言っても、唯でさえ英語の分からない私は、ネイティヴの流暢な会話について行けず、その内容はほとんど分かりませんでした(笑)。
いや、お恥ずかしい!いや何と言いますか、実のところ東京公演初日から体調の悪かった私は、いまいちテンションが上がりきらず、しかも異様に早いセンテンスの応酬にしり込みしてしまい、メンバーとはほとんどまともに会話してないですね。いま考えるともっと話せば良かったと思うのですけど。
しかしそんな中、とりあえずせっかく持ってきたMORQUIDOのジャケだけをメンバー各人に渡すことが出来ました。一応メンバーに訊いたら、DEATHCHURCHとMORQUIDOのSplit EPは受け取っているそうなので、「片面にMORQUIDOの曲が入ってるから」とエクスキューズを入れておきます。カットすらしていないジャケはセルフサービスでお願いしますね(って、随分と失礼なヤツっすね:笑!)
ヴォーカルのドンが席を立ち、「お前はコーラでいいか?」と訊いてきたので、思わず「OK!」と応えてしまう私。するとほどなく、近くの自販機でコーラを買ってきてくれたドン。いやぁ、そうなのです。とても“カルトデビルメタル!”なんて謳っているバンドとは思えないほど、ナンスローターのメンバーは皆気遣いのある人たちなのです。
この後、お待ちかねのピザが到着しますが、そこでも「俺が払うよ」と自ら進み出るドン。しかしそこはこちらに任せて下さいよ!「いいよいいいよ、これがラストパーティだから!」と押しとどめて、はるまげ氏が自腹を切ります。こういうアーチスト相手なら、お金の払い甲斐もあるってもんですよね(笑!)。
ピザを食べながら、メンバー中一番パンクなギターのショーンが、「俺、帰りたくねーよ!」と言い出します。そりゃそうさ、君たちを呼んだプロモーターはかなり待遇がいいからね!(笑)空港へ向かう車中でも、「俺は日本に住み着いて、アメリカを第二の故郷にしたいくらいだよ!」と、まるで林家こんぺい師匠のようなことを言っていたショーン。嬉しいことを言ってくれますが、実はそれにはもう少しディープな伏線があって、しかしそれは彼の名誉のために関係者だけの内輪としておきましょうか(笑)
メンバーの正にムードメーカー、ドラムのジムは最終日に至ってもすこぶる陽気!早口で語る彼ですが、お兄さんとの兄弟げんかのくだりでは身振りを交え、会話がほとんど聞き取れない私までも大爆笑してしまうほどでした。
彼もかなりの巨漢なのですが、彼のお兄さんはもっと大きくて気性が荒いらしく(?)、ちょっとやそっと殴られたくらいは「ブハハハー!」と笑って済まし、「その後、俺はヤツにボコられてぶん投げられちまうんだ!」と、凄まじい兄弟げんかの模様をおもしろおかししく語ってくれました。
更に、嘘かホントか「トラックでヤツに突っ込んでも、トラックの方が潰れちまうんだよ!」と、尾ひれをつけて数々のエピソードをデフォルメしてくれます。相当なコメディアンっすね、この人!
そうこうする内に時間となり、荷物を車に載せていよいよ空港へと出発します。直前「気圧で弦が切れるから」と、ギターの弦を緩めるメンバー。それから車2台に分乗します。Tim氏とはここでお別れ。メンバーと最後の挨拶を交わしたTim氏に見送られ、車がスタートします。
空港まで行く見送り要員は、はるまげ氏とブラッドバス氏、それから私の3名です。私はブラッドバス氏の車へ、後部座席にはナンスローター2分の1が同乗しています。ギターのショーンと、ベースのクレイグです。空港までの車中は、ある意味凄まじい光景がありました(笑)。
メンバー中最年少、18歳(!)のクレイグはとっても無口。ライヴでは観客を煽り、長身痩躯で非常にステージ映えするカッコいい彼ですが、一旦ステージを降りると自分からはほとんど発言しないという、アメリカ人にしてはとても珍しい人なのでした。
もちろんメンバーとの年の差もあるのでしょうが、どうやらお爺さんとお婆さんがロシアからの移民らしく、つまり彼は3世ということ。ロシア人気質を備えた彼は、やはり無口なのだな、と思わず納得すると思ったら大間違い。ロシア好きの私に言わせたら、ロシア人のイメージは基本的に早口でまくしたてるものなのです。まあでも、男性の場合“酔っ払ってる時”っていう注釈が必要かも知れませけど(ロシアのおばちゃんはシラフで凄いっす!)。
ショーンはお昼の時から既にビールを飲んでおり、移動の最中は大分出来上がっていたように思います。クレイグは元から無口だとしても、陽気になったショーンがバンドメンバーに話しかけるのは当然予想されるところであります。しかしこの二人、同じメンバー同士なのに空港へ向かう1時間半くらいの間に一言も言葉を交わさなかったのです!
なんだか凄い光景でした。ショーンは時々ブラッドバス氏に話しかけてくるものの、クレイグに至っては本当に一言も発していない!車中は、私とブラッドバス氏、ショーンとブラッドバス氏といった組み合わせで、ブラッドバス氏を中心にして会話が飛び交っていたのでした(笑)。
そして午後4時前に成田へ到着。メンバーが皆トラベラーズ・チェックを受けていると、共演したバンドから大量に頂戴したライターが見つかってしまった模様。ブラッドバス氏が救援に向かったもののとき既に遅し、有無を言わさず全て没収されてしまいました。昨今テロなどありますから仕方ないのですが、受付する前にもっと分かりやすく注意を促してくれれば、こちらで回収して後で対応することもできたのに。と、ちょっと残念なことになってしまいました。
荷物を預けたメンバーと再び合流し、ロビーでしばし休憩を取ります。ジムを残し、他のメンバーは両替に。するとそこでブラッドバス氏が「あと10枚くらいフィルムあるから」と、ジムとはるまげ氏と私の3人で1枚パシャリ!しかしそれが思わぬ誤算で、実は残り枚数を勘違いしており、なんとこれが最後の1枚だったのです。
戻ってきたメンバーには、「(空港の写真はないけど)それはまあ、心に留めておくってことで!」と感動的な言葉を贈ったところで、ジムが一言「“ここ”に収めておくってことだな!」ってアンタ、そこは“下半身”ですから!最後までこの調子でした。
と、ここで気づいたのですが、ギターのショーンがまだ帰って来ていない。どこに行ったんだ?両替所にも並んでいないし。するとほどなくして戻ってきたショーンは、手提げ袋をぶら下げています。「自分のと彼女のためのお土産を買ってたんだ!」と言う彼は、わざわざ封を開けて見せてくれました。
彼女には日本人形(なんか琉球っぽいヤツでした)を、そして自分のために買ってきたのは、キャップがシンバルを叩くチンパンジー(日本人なら誰でも知ってるアレですね)になっている「ペッツ」でした。彼らしいと言えばらしいのですが、そんなのでいいのか君は?なかなか安上がりなパンク野郎でした。
そんなわけで、メンバー全員揃ったところでいよいよ飛行機に搭乗する時間になり、我々は出発口まで見送りに。とても大人な(約1名を除いて:笑)人たちで、サポートをしている関係者にまで気を遣ってくれる、本当に素晴らしいバンドでした。常に笑いが絶えず、一緒にいて、とても楽しいひと時を過ごさせてくれた彼らと別れるのは少々寂しい思いがします。
ゲートをくぐったあとも姿が見えなくなるまでお互いに手を振り合い、またいつの日かの再会を祈ってメロイックサインを掲げます。そんなわけで18時25分の便に乗り、とっても素敵なデビルたちは機上の人となったのでした。

@ちぇっそ@