「厳戒武装指令」

という映画を見ました。チェチェン紛争を題材にとった、2002年製作のロシア映画です。
主人公のロシア軍曹を演じるのは、ウラジーミル・ヴォルガというロシアのボクシング・チャンピオン。そして対するチェチェンの総督には、なんと私の好きなロシア俳優、アレクサンドル・バルーエフが扮します。
孤児だった主人公は志願兵として入隊。チェチェンの最前線に送られた彼は、敵の待ち伏せに遭い戦友と共に捕虜となってしまいます。身代金を要求するチェチェン軍。捕虜となった2人は脱走を図りますが、果たして2人の運命は!?
ちょっとグダグダした感じで、突っ込みどころも満載なのですが、ロシアとチェチェン、両体勢がこの戦闘に掛ける意味合いについて、両方の立場から描かれている点には感動を受けます。
決してチェチェンの立場を無視した作りにはなっていません。この辺り、リアリズムを追求するロシア映画の伝統に則っています。更に言えばペレストロイカ以降、ソ連時代の「ソ連万歳!」と言った風潮が払拭され、本当の意味でのリアルがあるといえるでしょうか。
しかし映画の完成度という観点では、まだまだと言わざるを得ないところ。まあ、あくまでエンターテイメントととして、いささか冗長な部分があると言いましょうか。
面接を行う司令長官。どこの馬の骨かも知れない小僧に向かって、手元のタバコを投げつけます。見事な反射神経でパシッ!と受け取った主人公、「よし、明日からの訓練は辛いぞ!」と長官から合格が言い渡されます。とってもスポ魂的ですね。
必要以上に(いや、以下か)音楽を使用しないため、戦闘での緊迫感がイマイチ出ない。いや、これが本来の戦闘の様子であるのですが、せっかく軍から借りた本物の武器を使用していても、ハリウッドの「ブラックホークダウン」には遠く及びません。
ミリタリ・マニアにとっては垂涎のボーナス映像なのですが、一般人にとっては、もうちょっと気分を高揚させてくれる演出が必要だったかと。
都会の場面、主人公の戦友の妹が登場するところ。ロシアのクラブでライヴが行われています。そこで流れているのはなんと「タトゥー!」。おや、久しぶり!なんて言うのも束の間。そのSEに合わステージでパフォーマンスしている男性は、何故かもの凄い“ヘッドバンキング!”なのです。
「首よ折れよ!」とばかり勢い良く振る様に、見ているこちらがちょっと引いてしまいました。(ちなみに「タトゥー」本人は出てないよ)
そして終盤。純粋な戦争物かと思っていたら、最後は普通のラブストーリーになってしまいます。戦友の妹と仲と良くなった主人公は、また戦場へと戻る最後の日、彼女とデートをすることになります。
すると町のチンピラが現れ、「“オレ”の女に手を出すな!」と、からんでで来ます。もちろん、彼女はそんなアホゥを相手にしていないのですが、威厳を保つため、主人公はそのチンピラの呼び出しに応じて、裏通りへとやって参ります。
ナイフを持って飛び掛るチンピラ、相手は4人です。しかしボクシング・チャンピオンが負けるはずがありません。しかも軍隊に入ってロシアン・サンボまでマスターした(という設定であろう)、正にコレ全身武器!と化した戦士の前に、ことごとくのされてしまうわけでありす。
あ〜ぁ、ナイフなんて出したらそれこそロシアンサンボの思う壺。こういった白兵戦でこそ威力を発揮する殺人殺法の恐ろしさを思い知らされるわけです。
とまあ、なんやかやと難癖付けた感じになりましたが、後半からは結構面白くなってくるので、最近のロシア映画の雰囲気を味わいたい方は見ても損はないと思います。と言いますか、何気に味のある作品です。
ヒロイン役のオルガ・チュルナが実にキュートです。例えば元モー娘の“ゴッチン”をロシア風にした感じのロリータっぷりが、オタク魂に火を付けること請け合いです!幸薄そうなはかなさに心を揺さぶれらるのです。
いやもちろん、ロシアが誇る演技派俳優、アレクサンドル・バルーエフのチェチェン人っぷりも見逃してはなりません。本当に最初は、主にチェチェンを形勢する北カフカス民族から抜擢した人物かと思ったくらいですから。(ファンの私が分からなかった!)

@ちぇっそ@