「幻のハリウッド」

デイヴィッド・アンブローズ作の短編集。本書に収められた7編は、全てハリウッド映画界を題に取った、どれも一風変った味わいを持つ作品群であります。ある意味、様々な噂が錯綜する芸能界における都市伝説とでも言えましょうか。総じて、どれも実際に語り継がれているハリウッドのゴシップにヒントを得た、フィクションにフィクションを重ねたスキャンダラスな逸話が描かれています。もともと業界人である作者の経験が生かされた作品の数々です。
「生きる伝説」
SF的な作品。あまりに使い古された題材で内容を語るのはアレだが、ちょっとだけF・D・ディックを意識したような、正に“はりぼて”の舞台装置の描写はそこそこ幻惑的だった。
「ハリウッドの嘘」
そこそこのキャリアを持つまあまあな監督。ある日突然自分の企画がトントン拍子に進み始め、大手製作会社との契約に繋がった。しかしその本当の理由は?“知らないのは彼ばかり”という、こちらも昼の連ドラチックなかなりチープなシナリオ。しかし、登場人物たちの豊かな人間性につい引き込まれて読んでしまう。“脚本が良い”とはこういうことだろうか。
リメンバー・ミー?」
大昔の俳優達の晩餐に呼ばれた新聞記者。彼をここへ連れてきた、とある伝説的スター。「俺は死んじゃいなかったんだ」と訴える彼だが、果してその真相は?一種の幽霊譚ともとれるし、単なるサイコの狂演ともとれる一編。
「へぼ作家」
大当たりしたテレビドラマ。名物キャラクターも生まれ、脚本を担当した放送作家は大成功を収める。しかし第一シーズンが終了したところでハプニング。もっとも人気だった精神異常者役の俳優が番組を降りるというのだ。代役を立てようにも、その俳優の魅力あってこそのキャクターだっただけにそうもいかない。仕方なく製作サイドではその役を作中で抹殺して、新たなキャクターを作ろうとするのだが。
スティーヴン・キングが書きそうな絵に描いたようなホラー。キャラクターの抹殺にもっとも異を唱えたのが、当のキャラクター本人だったとしたら?キングほどの盛り上がりはないが、嫌いじゃないです、こういうの。
「名前の出せない有名人」
鳴かず飛ばずの俳優が、ポルノ男優へと転身。そこで出会った女優に恋をする。わけありでこの業界にいる彼女との、一筋縄では行かないその恋の行方は?途中からサイコパスな様相を呈しちょっと期待したのだが、ラストは平凡に終わってしまった。この作者、もしかしてブラックなセンスが少し欠けているのだろうか。
「ぼくの幽霊が歌っている」
これはちょっとヤバイ感じ。(笑)どの作品にも言えることで、それとなくほのめかしたことでも「ああ、あの有名人のことか」とかなりモロに分かるのだが、これはもうそのまんま。伏字にすればMJ。パロディというか、ヒドイ歪曲だ!確かに笑えるが、読んでいるこちらが心配になるくらいの暴走に目が点となった。前言撤回、ブラックなユーモアも持ち合わせていた。
「ハリウッド貴族」
業界の大物とねんごろになり、玉の輿に乗ろうとする人間はいつの時代にもいる。正に挙式直前、そんな成功を約束された彼女が犯したたったひとつの罪とは。ハリウッドに巣喰うスキャンダルの縮図の一端を描く。中短編としては多少中だるみしてしまった感も。有名人たちの人間観察が生かされた作品。

@ちぇっそ@