ちょっと北の国から -2005 Part3-

明けて翌朝、6時半くらいから私を除いた3人が朝風呂へ入りに行った。私は昨日のアロマのもみ返しがきたのだろうか、異様な疲労感に苛まれモゾモゾと布団の中にもぐったままだ。
7時くらいに起き出して、朝風呂から戻って来たお袋たちとロビーまで土産を買いに行く。「会社の人たちのために」といって土産を選ぶお袋。私が「いや、そんなにいらないだろう」と言っても、田舎の人間なので「いいから持ってけ、持ってけ」となってしまう。
大は小を兼ねる、結局3箱分を持たされることになる。自分の分の土産も買い、もう手さげ袋に一杯。まるっきり結婚式の引き出物を頂戴した時のような状態になってしまった。
8時半から朝食。
バイキング形式にサラダ、おしんこ、煮物などを皿の上にのせて行く。私はおかゆを頂いた。味は少し濃い目だったがごく普通の朝食。
9時半頃、チェックアウト。
再び妹の運転で今度は高原を下って行く。これから少し蓼科を観光して回る。
先ず訪れたのが<イングリッシュガーデン>という、英国風庭園を模したテーマパーク。入園すると、色とりどりの花が咲き乱れる。
所々に配置された彫像やアーチ、洋館風の小屋の前には鬱蒼と低木が生い茂っていたりと、なるほどゴシックな雰囲気すら醸しだすメルヘンチックな造園である。
庭いじりの好きなひとつ下の妹のこと、そこらじゅうをチェックしながら、実家の庭先に相応しい花などを物色している様子。
昨日からの天気が非常に良いので、季節の花々が目にまぶしく映る。
売り花コーナーで妹は数株のハーブや花の苗を買っていた。時刻はもう11時半くらいだ。
続いてやってきたのは、<漢方の歴史館>というところ。要するに展示された漢方薬を眺めてきたのだが、見ているだけで一体何かおもしろいことがあるのだろうか。
せっかくなので売店で少し漢方を買ったり、私は喉が渇いていたので「なんとか桃」のジュースを購入した。ものの数十分で退散。濃厚なジュースはとても美味かった。
そしてこれは恐らく、今回の旅行を手配した妹自らのお楽しみだったのだろう。細い農道を進んでとある牧場へ辿り着く。なんとここで乗馬を試みようというのである。
馬場に人気はなく、厩舎の看板には携帯の連絡先が書いている。ここに電話をすれば直ぐに来ますよ、ということだ。
電話をかけると、いま外を回っているからあと10分ほどでこちらに来るとのこと。それまではこちらの馬たちをしばし見学させてもらうことにする。
そこに居たのは5頭ほどだったろうか。人懐こいヤツもいれば、妙にせわしなく首を左右に振っているヤツもいる。しかしどの馬も大変良く調教されているようで、こちらが手を出してもおとなしく撫でられているか、顔を突き出して愛嬌を振りまいてくる。
それから一段低くなった馬場へと降りて行く。その脇にはミニ牧場だろうか、柵で仕切られた敷地内には数頭のヤギやヒツジが寝そべっている。
その中から妙に人懐こいヤギがやってきて、我々家族を歓迎してくれる。いや、単にコイツが甘えたがっているだけかも知れないが、喉元をさすってやると、ほとんど犬やネコと変らぬように目を細めて気持ちよさげにしている。ずい分と調子のいいヤツだ。
そうこうするうち、小高くなった林道の方からひづめの音が聞こえてくる。まるで映画の一場面のよう、2頭の馬が颯爽と馬場へ繋がる坂道を下ってくる。
調教師が馬を下り、もう一頭に跨った生徒を指導している。しばらくの間、その光景を眺めていた。
するとおもむろにあなた方の番ですよ、と声をかけらるが今回私はパス。お袋も歳なので、はなから乗る気はない。一番下の妹はアレルギー持ちで外飼いの動物には触れられない。従ってひとつ下の妹だけが乗馬をすることになった。
少し関西訛りのある調教師。軽く笑いをとりながら、あぶみの足の掛け方から手綱の握り方。そして基本的な操作方法を手際よく教えて行く。柵の外側で見学している私も、なるほどとうなずきながら拝見する。
「言うことを聞かないと怒る人なのかどうか、馬が試してますよ」とか、「乗ってる人が行く先を分かってないと、馬には更に分かりませんよ。『真っ直ぐに行く』っていうのも分かってないんですから!」などと、馬に感情移入し過ぎず微妙な距離感を保ったまま、実に良く馬のことを理解しているなぁと感心する。
この絶好の機会を逃すでないと、お袋と一番下の妹がカメラを持ち出してくる。お袋のカメラにはフィルムが数枚しかなく、シャッターの押し方を確認しようと、私がたまたま撮った乗馬の後姿も含め、わずか4,5枚で撮り終えてしまった。妹のカメラもあえなくバッテリー切れ。撮影会は早々に切り上げられた。
なかなか筋の良さげな乗馬中の妹。(馬が良いのだ!)レッスンの最後に気を利かせた調教師が、「はい、じゃあギャラリー向かってそこでストップ!」レッスン終了。
「それじゃあご家族の方。ここで一枚パシャ、とやってください!」
「すいません、もうフィルムないです!」
「ありゃりゃ!」とずっこけた調教師は、やはり関西流の見事な倒れっぷり。
しょうがないねと、じゃあ私の持っていた携帯で撮影しようということになり、なんとか「馬と家族」という記念写真を撮ることができた。
小屋の方でお茶などを出してもらいしばし団らん。お互いの家族の話題や、大変興味深い乗馬の歴史などを聞かせてもらい、乗馬した妹だけでなく、我々全員がとても楽しいひと時を過ごすことができた。
今度機会があったら、私も馬に乗ってみたいものだ。
さてまだ昼飯を食っていなかった我々一行は、少し山を下り、適当なところでそば屋へと駆け込んだ。やはり信州そばどころ、少しはその恩恵に預からなくては、という訳ではなく、本当は和食(そば以外のという意味)が食べたかったがお店が閉まっていたためである。
皆、丼ものとミニそばのセットを頼む。私とお袋は一足お先に地ビールを1杯。わさびを使った浅漬けが付いてきて、これが実に良くこの地ビールと合う。美味い!
他にてんぷら盛り合わせもオーダーして、食後には結構な量が腹に収まることになった。急場で入った店だが、そばはとても美味かったし、旅館のわけのわからぬコース料理よりよっぽど安心して食べることが出来た、と言っては、せっかく予約してくれた妹に悪いか。
さて後は越後の実家に帰るのみ!往路とは道筋を変え、帰路は天国をひた走るかの景観が見もののヴィーナスラインを行く。
植物の生育層が変るほどの高地。牧草のような小麦色した草原のあちこちに、まばらに低木が点在している。険しい山道とも、しんとした林道とも違うなんとも不思議な世界。
正に穢れなき天使たちが彷徨うように、開けた視界には右へ左へとゆったりカーブする道が続くのが見渡せる。
途中、美ヶ原高原へと降り、そこから高速へ乗るために松本市内へ向かう。こちらは打って変わって険しい山道。急勾配の厳しいカーブが連続する難所である。
しばらく行くとちょっと開けたところに桜並木が連なっている。ここで少し休憩。花を大分落とし始めてはいたが、まだ散り始めといった並木をバックに記念撮影。のんびり行きましょう、スローライフで!
高速に乗ってしまえば、後は元来た順路を引き返すのみ。下の道に降り、新潟県内に入った時には辺りがすっかり夜のとばりに包まれていた。
時刻は午後8時。
私は明日から仕事のため、そのままその足で越後湯沢の駅まで送ってもらう。正直もう少しゆっくりしていきたかったのだが、仕事の方も少し気になるので、このような慌ただしいスケジュールとなってしまった。
総武線に揺られ、本八幡のアパートへ帰り着いたのは午後11時近くであった。
考えてみればここしばらく実家へ帰っていなかった。記憶が曖昧になってしまったが、もしかしたら“去年”の正月以来だったかも知れない。
久々にお袋の元気な顔を見て安心したものだが、そう言えば今回の旅行まで、まさかお袋が還暦を迎えていたとは思わなかった。
1年以上会っていなかったので、帰郷した時にどれほど老け込んでしまっているか、多少の心配があったのは確か。しかし前に会った時と変らず、まだとても還暦とは思えない若々しさをたたえていたのが何より嬉しいところであった。
こうした親孝行的なものは初めてで、よって上手くお袋をエスコートできたかどうかは正直自身がない。というより実際は、照れと我が兄弟の性格も加わり(皆妙に落ち着いた性格で互いに干渉しようとしない)、だいぶギクシャクした旅行となってしまった。
最初に立ち寄ったコンビニでは、いつものクセで、カゴに突っ込んだ品物をお袋がまとめて清算するところだった。そこへすかさず妹が割って入り、レジでお金を払う。「ああ、そうだった。お袋は金払わなくていいんだよ」なんて、気付かず見ていた私は苦笑い。
そんな恥ずかしいエピソードも交え今回の長野旅行が終了したわけだが、お袋は喜んでくれたのだろうか。もちろん表面的には「ああ、楽しかった!」と言ってくれてはいたが、所詮この兄弟たちだ、まあこんなもんだろう、と本心ではそう感じていたのかも知れない(笑)
短い滞在ではあったが、私にとっても良い思い出となった。まあ記念日と言わず、またいつか機会があったら家族で旅行するのもいいんじゃないかと思っている。次は、ロシアかな(笑)

@ちぇっそ@