ちょっと北の国から -2005 Part2-

行くは信州信濃路。野沢〜斑尾〜信濃を渡り、千曲のほとりをひた走る。盛りは過ぎたが、土手を走る道路の沿道には、まだまだ黄色く咲き誇っている菜の花がずらり。更に河原では菜種の実をつけ始めはしたが、いまだ黄色の絨毯を拡げている畑もある。
天気は快晴、景色は壮観。なかなかに快調な、越後のご一行様のお通りである。
長野市を越え、松本で高速を降りる一歩手前でしばしの休息。パーキングから眺望する眼下には、広大な水量をたたえる諏訪湖が見下ろせる。写真を一枚、絶景かな!
久しぶりの家族写真などに少々照れる。といったところでそろそろ昼時、腹も減ってきた。高速を降り、諏訪湖に程近いレストランで昼食をとることにする。
ごく普通にスパゲティなどを頂き、食後は眼前の諏訪湖へ腹ごなしの散歩。湖面には遊覧船やらスワンボートなどが浮かんでいる。
なだらかなジャリの浜へと降り立ち、湖を間近にしてみるが、近すぎて大きさの分からなくなった諏訪湖にさほど感動を覚えず。得てしてこういったものは、離れて鑑賞してこそその壮大さを実感できるというもの。
日向ぼっこがてらに出てきてはみたが、あまりの日差しの強さにものの十数分ほどで退散。今日は暑い!
その後は真っ直ぐ宿へ。蓼科高原の林道を行く。閑静な避暑地としてペンションやら山荘やらが立ち並ぶ。正にメルヘン街道、高級リゾートの夢見心地を与えてくれる。
そこから大分上ったところに、宿泊先となる「親湯(しんゆ)」という旅館がある。駐車場へ渡る橋の下には滝が落ち、入館前から気持ちをそそるなかなか風流な佇まい。
もしかしたら結構有名な旅館で、テレビの旅行番組か何かで拝見したことがあっただろうか。こういう場所へ一度来てみたかったなあという、そういったイメージを沸き起こす。
午後3時前にチェックイン。部屋へ通され、長かった旅路から開放される。
茶を飲んで一服した後、お袋は早速風呂へ入りに行った。私は自販機でビールを買い軽く一杯ひっかける。
部屋の窓からの眺めは抜群。今日のために手配してくれたひとつ下の妹が、景観の良い部屋を予約していたのだろう。角部屋で、どちらの窓からも外を流れる渓流が見渡せる。そして渓流は溜め池に流れ込み、そこから先は滝となって流れ落ちる。
真下の庭先に、少し花びらを落とした桜が咲いているのが見える。視線を上げた山腹にも、新緑に混じり桃色をした1本の山桜が咲いていた。
なんとも侘び寂びのある光景の中、落ちる夕日が溜め池に反射して私の顔を照らす。少し遅い高原の春の情景である。
小一時間ほどしてお袋が戻ってくる。今回の宿泊プランにはアロマテラピーも含まれており、先ず始めの4時の回はお袋が行くことになった。後は順じ時間になったら一人ずつ出向いて行くという手はず。
私もそろっと風呂へ浸かりに行くことに。するとなんと、ここの浴場はタイル張りではなく全面畳敷きとなっていた。まるで大名風呂のごとき贅沢な仕上げ。
この畳敷きは実に心地よいし、また非常に理に適ったアイデアである。タイルのごつごつ感はないし、石鹸を踏んづけて転んでしまうのではないかといった恐れも軽減される。例え躓いて転んだとしても、畳なので先ず怪我をすることはない。
子供やお年寄りに都合が良いだけでなく、健康な成人男性にとっても嬉しい配慮ではなかろうか。風呂嫌いな私でも満足出来た。
もちろん畳は特殊素材で作られているので、カビ対策も万全。(これではまるで宿の回し者だ!)
風呂から上がってくると、部屋では皆が予約制の露天風呂へ向かう準備をしている。一瞬私も付いて行こうとしたが、貸切とは言え、年頃の娘もいるので家族揃って混浴というわけにも行かない。仕方がないので私はお留守番。
これではせっかく湯治場に来たのに意味がない感じだが、主役はお袋である。別に私が癒される必要はないのだ。
後で友人にも見せてやろうと思い、携帯で外の写真なんかを数枚撮影してみる。風景写真というものは実際の感動からはかなりかけ離れてしまうので、なるべくその感動を損なわないように撮らなければならない。たかが携帯とは言えアングルなどが難しい。
皆が露天風呂から戻ってくる。夕飯は1Fのレストランでコース料理だ。
食前酒の高原ワインなどをたしなみながら、イタリアンともフレンチともつかない、郷土風味を盛り込んだ皿の数々が運ばれてくる。
わらび餅がゴマ風味のスープに浮いたものや、信州名産リンゴのソテー。ふきのとうのスープに、あんずシャーベットなど。
このように言葉じりだけだと美味そうに聞こえるが、創作コース料理といのも少々微妙なもの。好き嫌いの多い一番下の妹などは、出てきた料理の3分の2ほどしか食べられなかったのではないか。
マグロの刺身や、鯛のつみれのようなシンプルなものは普通に美味かったが、全体的に期待したほどではなかったため、家族全員思わず無口になってしまう。なんとなく気まずいのでお袋の昔話へと話題を振ってみる。(田舎者なので気を使ってしまい、料理人のいる前でまずい料理の話ができない)
昔聞いた時があったのかも知れないが、知らなかった事実も多くあり、自分の記憶と検証しながら「へぇ〜」と感心することしきり。
大分おもしろくなってきて、もっと話を聞いていたいと思った矢先、旅館の従業員がテーブルへやってきた。「ご予約されたアロマテラピーのお時間が迫っておりますので。。。」と促され、慌てて談話を取りやめる。
「早くしなさい!」「あ、その前にトイレ」「あの、いま息子がトイレに入ってまして、もう少しお待ち下さい」少々バタバタしながら、なんとかマッサージの部屋へと入る。
私の家族はいつもこんな感じだ。私の抱いている母親のイメージは正にサザエさんそのものである。世話好きだがおっちょこちょい。ポジティヴ思考でちょっと天然が入っている。子供時分にはそうではないが、私も三十路を超えた今となっては、母親というより姉さんといった感覚に近いかも知れない。
アロマのマッサージを終えて戻ってみると、家族の半分は既にご就寝モード。目は開いているが布団の中でごろごろと寝転び、漫然としながらテレビを見ている。
座椅子に腰掛けしばらくテレビを眺めていたが、そろそろ疲れたなと思い私も布団の中へ。家族全員が床に着いたのは、午後11時過ぎであったろうか。
ひとつしたの妹が最後、消灯する。

@ちぇっそ@