業務終了へのカウントダウン

さて、いよいよ私の担当する業務の最終章。本日はその初日。通常発送データの最終処理でござい。
現場の作業は、ゴールデンウィーク対応で5月6日。従って時間的に余裕があるので、本日は処理の半分だけを済まし、残りは明日の日中に回す予定。入荷商品も滞りなく納品され、後はデータ待ち。事前の上司との冗談で、「アイツラ、最後の最期でなんかやらかしてくれるんじゃないの!?」なんて言い合っていた。
しかしさすがにここ数ヶ月に渡り、データ処理段階での不具合は発生しておらず、まさかそんなケアレスミスなんて起こりえないと思っていた。ところがである!
普段より早い時間にデータ受信。「しめしめ、今日は早く帰れるな」と、なかばほくそえむように処理を開始。すると、モニター上に「データ・エラー」との表示。あれ?何か処理を間違っただろうかと思い、自分の作業手順をチェック。しかし全て完璧に処理されている。
そこで受信したデータを確認してみると、なんとそこで先方が寄越したデータに不具合があることが発覚!早速報告し、先方にデータを修正してもらい、再度受信。
全く、素晴らしい置き土産である。期待に違わないダメ仕事に拍手!(ま、最期にこれくらいないと、散々私らを悩ましてくれたこの業務の有終には物足りない!)
予定通り処理を途中までで終わらした私は、午後9時に終業。明日の続きに備え、そそくさと会社を後にする。
さすがに長年に渡り携わってきた業務だけに、いよいよカウントダウンとなると多少の感慨が沸いてくる。ちょっとした事件はあったが、今日はなんだか気分が良い。寂しさと言うより、良くやったという、清々しさが全身を支配する。
それなら今日は歩いて帰ろうか!
357脇の歩道を歩きながら、私が吸えるタバコの数少ない銘柄のひとつ、キューバ産ロメオyジュリエッタを咥えながら帰途に着く。
アル・パチーノを気取って親指と人差し指でつまむが、どう見ても単なる貧乏くさいロシア兵にしか見えない、セルゲイ・ボドロフJrの握りでフィルターを挟み、足取りも軽く、通いなれた側道を駅に向かって歩く。
長い一仕事を終えた後のタバコは美味い!夜空を見上げると、そこには羽田へ向かうジェットの機影、いや、尾翼の非常灯が浮かんで見える。
「このやろう!俺の夜の空に障害物となるのか!」
笑いながら怒る人のように、口角を上げながら怒声を浴びせ、ひと吸いしたキューバ産の煙を天に向かって吐きつける。
「どうだ、煙幕でも喰らえ!」
もちろん、そんな地上の戯れごとなど気にせず、ジェットは暗澹たる夜空の向こうへと消えてゆく。アハハ!なかなか“気概”があるじゃないか!
さらに、てくてく、てくてくを続け、歩道橋へとやって来た。さあ、ここからこの歩道橋を渡り、歩いて帰るための路線へと車線切り替えだ。自転車も通過するため、大きく幅の取られたゆるかな段々を、一足飛びに駆け上がる。
「お!俺もまだまだ行けるなぁ!」歩道を渡る。
勢いづいた私は、昔取った杵柄。バスケ部仕込みのクロスステップを駆使し、くるくると回転しながら国道を横切る。
これでは全くの馬鹿だ。さしずめ奇人の「キ」の字である!人に見られていないか「気」にしながら、「嬉々」として走り抜ける幻影。下を走る長距離トラックには、このステップがまるでホビットのようにでも見えただろうか。(この時点ではまだアルコールのたぐいは入っていない!)
下り階段をジグザグに下りる。
中村雅俊の青春映画か!まるで恥ずかしい愚行もなんのその。今こそ、私は青春真っ盛りなのだから!
またもや“ひたあるく”。
反射板が付いた、歩道の終わりににょっきりと生えている、あれはなんという名称だろう!(私も名前を知らない物体がこの世には数多くあるのだ!)ムーミン谷に群生する、ガードレールの支柱だけになったような、白い“棒”。
それをめがけて助走。馬飛びの要領でサッと飛び越える、大成功!まだまだ、“身体だけは”20代を示している。(?)
お、またも現れたな。この「にょっきりニョキニョキ君が!(便宜上そう命名することにする!)」
弱冠人目をはばかって、ジャンプ!“向かうところ敵無し”とは、今の私は世界を支配する!
そして私は歩みを続ける。
地下通路の寄り道。ちょっとだけ入ったら、またすぐ地上に出てしまった。意味のない回り道。ひとりの時の私自身ほど楽しいヤツはいない!こりゃ最高!
コンビニエンスへと立ち寄る。
ヤマザキデイリー。レジ横には焼き立てパンが。早速突進、ちょいとこのヨーロピアンサンド、旨そうじゃないか!ちょっとした“つまみ”にちょうど良い。それとフィッシュサンドドッグ、目玉焼きハンバーグサンドを買って、なんだ、これで今夜の夕飯は完成!
ビールと日本酒を買う。もちろん、長い旅路のパートナーである。
メインストリームを避け、人気の少ない団地方面へと足を傾く。プルトップの栓を開け、ヨーロピアンサンドの封を開けて噛り付く。
チーズの香ばしい香り。ああ、五臓に響く!(もちろん“麦酒”にも着手!)
団地の角を曲がると、ひとりの見目麗しい淑女が通り掛かる。
「あ、これは!」こんなところでこんな怪しい人物と接近遭遇したのでは、恐れおののいて失禁しかねないと憂慮し、「そんなアナタを一切気にしてませんよ」というそぶりを見せるため、弱冠の射程距離を置く。と、思ったら!
男装の麗人ならぬ、「女装の紳士!」
果てはカバちゃんか、美和明宏か!これは失礼、一体どちらが真の変人たるや!なんとも意外なる闖入者に度肝を抜かれる。(断っておくが体のほかの箇所はヌかれていない!)
しかしもかかし。なんとも神妙なるシチュエーションにて拝観した貴重なる一場面。むしろ、この性倒錯者を肴に一杯交えたいところ。しかし実際の変質者を目の前に、本心を打ち明ける勇気のあるものなどどこにおるであろうか。
私は過ぎ去る後陰に後ろ髪を引かれつつ、不本意ながら、その場を後にした次第にござる!
何ゆえこんな珍妙なる出会いに思いを馳せるのか、それは今日の新月が私を狂わせるせい、狂わせる。。。なんと、チン妙な!
新月どころか、月のかけらさえ見当たらぬではないか!
まったく我輩の不足の至る次第。今晩はまるで十五夜とも、見世物小屋とも関係のない日和でしたな!アッハハァー!
いやはや、今宵はなんとも私めのお恥ずかしい醜態なぞをさらしてしまい、大変な失敬おばつかまつりたてまつる。
しからばして、このような過失、それは一重に悪徳業者との決別に心浮く所存に拠りますゆえ、なにとぞご勘弁のほどを!
これより未来終生に渡り、私めの安泰の日々が続きますかは神のみぞ知りたもうところ。しかして、今宵のところは浮かれ騒ぐ有終の宴。
果たして、我が置かれたるこのときの境遇は、成功への行脚か、はたまた破滅への入り口かは、はかなき小人の知るところにはござりませぬ。
ああ、なんまんだぁ〜、なんまんだぁ〜。

@ちぇっそ@