クールでポップな都会派ホラーはいかが

最近少しウィスキーじみていて、先週末にはアイラモルト最古参のシングルモルト、BOWMOREなんぞを飲んでいました。強烈なピート香が鼻を突き、さすが通の1本。飲めるもんならのんでみろ!的な、好き者にはたまらない個性の強さを発揮していました。
そして昨日は、昔ジョニ黒にオマケで付いていた、ジョニ黒でブレンドされている原酒のミニチュアボトルを飲みました。昨日飲んだのは、グレンキンチー。シングルモルトでは比較的飲み安い1本で、原料の麦の香りまで漂うかの爽やかさがありました。って言っても、ウィスキーの原料は大麦なのでビールの小麦と違い、そんなに香ることはないんですけど。いや、なんかそんな気持ちがしたってことで!
それで今日は、またジョニ黒のオマケだった、タリスカーを開けてみました。こちらは、グレンキンチーよりは多少ピート香が強く、ウィスキー然としたしっかり感を伝えていたでしょうか。
なんて、モルト通を気取っていますが、ホントはウィスキーの正確なテイスティングをするには、フルボトル(700ml程度)を1本空けるくらいでなければいけないのです。その日の体調、または気温によるホルモンバランスの変化の為、味覚が違ってくるからです。
なんてまた専門的な用語を並べ立てましたが、要するに友達のタバコを1本恵んでもらったところで、そのタバコの味が分からないのと一緒です。舌が慣れるまで飲む必要があるのですね。
というわけで、クリストファー・ファウラー「スパンキイ」を読みました。イギリス発の洗練されたモダンホラー長編です。
恋人いない、昇進できない、将来の展望もない。というないないづくしの、ノビ太君的キャラ家具店店員が主人公。とあるバーで出会った一人の紳士。その姿は彼にしか見えず、名をスパンキアロソファス・ラクリモーサと言い、ダイモーンの種族であった。“デーモン”ではないというその男は、無償でおまえの夢をかなえてやると近づくが、概して成績の良いサラリーマンとは口が上手いものである。果してダイモーンのお陰で、たいそうなブルジョワジーを手にした彼の運命はいかに!
気軽に読めるエンターテイン作で、結構おもしろかったです。「悪魔は元々天使だった」とかなんとかごたくを並べますが、結局は悪魔だったこの「スパンキイ」が、主人公の夢の実現に課した事は、主人公がその高級な生活に足るだけの、知識や教養、行動力を養う為の特訓であったのです。
この辺りがおもしろい。闇雲に与えるのではなく、あくまで自分の力で手に入れた!と思わせるように仕組む策略がちょっと新鮮です。まあ、その為のお膳立てには少々の魔術の使用はありますが。しかし途中からは雲行きが怪しくなり、やっぱり“ただで”成功を手に入れられるわけではなく、後半のどんでん返し(しっぺ返しか?)へと向かうわけです。
主人公を屈服させる為に悪魔が見せる幻覚がなかなか鬼畜で、その辺りのスプラッタ描写が作者の人の悪さを示しているでしょうか。映画の製作会社も営む作者は、さすが視覚に訴えるイメージで、読者もろとも悪趣味世界へと誘ってくれます。
等身大の主人公にも共感できる、ちょっとこ洒落たモダンホラー。あまり恐くはないので、重たい純文学の骨休めにちょうど良いかも。ちなみに作者が製作に関わった映画作品には、トレインスポッティングなどがあるそうです。小説の方もさもありなん!と、納得させるものがあったと言っておきましょう。

@ちぇっそ@