横浜中華街膝栗毛 −その② 病気マン、怒る(いかる)−

さあいよいよです。遠路はるばるやって参りました、横浜LIZARD。今夜の3番手に名を連ねた、我らが病気マンの闘病。。。いや、登場であります!
我が病気マンクラブ会員にとっての尊師と言える病気マン。本日のその出で立ちは、そこらじゅうに穴のあいた、白くてみすぼらしい布きれをまとっております。下半身はかろうじてブリーフのようなものを装着し、さながら奇形として村々から爪弾きにされ、行く当ても無く、各地の教会で受けるほどこしのみを頼りに巡礼を続ける、中世のフリークス・キャラバンのよう。
そしてその長く過酷な旅を共に歩むパートナーは、大事そうに小脇へと抱えられた、“オランダの娘・第1号”であります。今日の病気マンは、“ひとり”じゃないんです!
本日のオープニングを飾ったのは、愛器、鳴らないギター「花と夢号」によって奏でられるメルヘンチックなアクースティックナンバー。どうやら「春」のことを歌っている模様。季節は穏やかになり、この世の全てが夢と希望に満ち溢れる時期。我らが病気マンもついに手にした幸せ、「あの子かわいやオランダ娘」。永遠のパートナーを手にした感動を、我々にも分け与えてくれます。幸せを出し惜しみしない病気マンは、やはり我らの星です!いつになくやさしい歌声が響きます。
続いて始まったのは、軽快なテクノダンスナンバー!一度聴いたら忘れられない、「おーっぱい!おーっぱい!」の大熱唱。既に病気マン熱は感染し。。。いや、病気マンに心酔した信者の一団が大合唱。まるで尾崎並の人気だね、病気マン!
そして息も絶え絶えに、MCでは彼が所属する劇団ゴキブリコンビナートの告知なんかを入れ、いよいよ次なる演目へと突入いたします。
「火を灯せ!」の掛け声で始まったこれがラストナンバー。激しいジャングルビートに乗せ、低温ロウソク“じゃない”通常のロウソクを手にした病気マン。その火の付いた先端を食べる!吐き出す!また食べる!鋼鉄の舌を持つ病気マンの食べっぷりを見ていると、さもおいしそうに見えます!(んなこたない)
そして元気ハツラツ「ニトログリセリンD!」滋養強壮剤のビンに仕込んだ工業用アルコールを口に含み、のこのこと見世物小屋に集まってきた虫けらどもを丸焼きだ!灼熱の火柱が我々の顔を赤く照らしました。いやん、恥ずかしい!
そして何やら叫んだ病気マン、口蓋で固まったロウを取り除くため、用意したバケツに吐き出します、というかお約束の嘔吐!本日は“白ワイン”を飲んでいた模様。白濁した液体が滝となって流れ落ちます。それにしても今日はまた、もの凄いゲロの量!まだ吐きます、まだまだ吐きます!
もし健康診断で、肺活量ならぬ「吐き出し量」などという検査があったなら、間違いなく病気マンはクラスのトップに踊り出ることでしょう。何のとりえもない落ちこぼれだけど、「吐き出し量」ならクラス一番さ!君は本当は落ちこぼれなんかじゃなかったんだ。よかったね、病気マン!
さあそんなこんなで、おもむろに鎖を取り出した病気マン。それを口の中に流し込んで行きます。そしてなんと、その鎖の先端が出てきたのは、破れている衣装の穴の一部。それはちょうどわき腹の辺り、貫通して飛び出して来た鎖に一同仰天!?
ええ!?まさかこの日のために、彼は人体改造までほどこしていたのだろうか!しかしどう見ても最初飲み込んだ鎖では、胴体を貫通するほどの長さはありません。と、思ったその時、すかさず「んなこと、できねぇだろ!」と病気マンから突っ込みが入り、“2本の鎖”を投げ捨てます。
う〜ん、ノリ突っ込みだったのにこんな妄想をしてしまった私は、病気マンに本気で突っ込まれた気分。なんだか悔しいというか、ムカツキます!
“プチ切れた”病気マンは、「花と夢号」を担ぎ上げ、フロアへ飛び込んで来ます。そして「ギター兼“乗車用”」の愛器にまたがり、横浜LIZARDの床を滑る!今日は会場が広いから盤裏のローラーも良く転がります、スイスイです!
あーっと、しかし!会場の後方中央にある柱に激突!行く手を阻まれた病気マン、その柱に向かってクダをまきます。引きこもりな性格の為、大人の人間に対してはタンカの切れない病気マンでも、モノや動物、人間の赤ちゃんくらいだったらお手のもの。普段おとなしいくせに、突然やけくそになって切れまくるサラリーマンのようにド突きまくりです!おーっと、大技「小安キック」まで飛び出すハッスル模様。痛いのはむしろ、自分のほうですから!
しかしここで事件発生!なんと気付いてみたらば、哀れにも空気が抜け。。。いや、もとい!押し寄せる群衆に押しつぶされ、無残な姿で床に横たわる恋人の姿があったのです!(自分で“刺した”という噂も?無理心中か!?)
苦楽を共にしてきた最愛のオランダ娘。その魂の(空気の)抜け殻に手をかけ、地獄の悲しみに打ちひしがれる病気マン。冷たいリノリウムの床に伏せ、オランダ娘を抱きしめる病気マンの背中が、怒りに打ち震えています。
そしてさっと身を翻し、ステージへ取って返した病気マンは、その怒りも露わに群集に向かって慟哭の雄たけびを上げます。
「俺にはいくら手を出してもいいが、俺の女に手を出すヤツァ、ぜったい許さねェ〜!
おりゃあァァァァ〜〜〜!!!」
烈火の如く怒りに我を忘れた病気マン。手元にあったゲロ入りバケツに手をかけると、疾風のように群集の真っ只中へと駆け込み、「ゲロ大車輪!」五輪金メダリストの塚原も真っ青、立て回転!横回転!「プル!フル、フル、プル!」のミックスジャンプで高得点!(ていうか途中からモーグルの採点方法になってるゥ!?)
くもの子を散らすように逃げ惑う群集!こんなものを浴びたら、帰りの電車でその車両から全ての人員を退避させてしまうほど、かぐわしい臭いを撒き散らして鎮座ます、ホームレスと間違われてしまうこと請け合い!(ていうか、帰りの電車で本当に乗ってたホームレス!檄クサ!)
さあ、逃げろ!さあ逃げろよ、都会のヒヨッコどもめ!お前ら、もしかして自分のことを“街のちょっとしたお洒落さん”だとでも思っているのかァ!?お前らみたいな世間知らずには、ゲロにまみれた泣きべそこそがお似合いなんだ!
強烈なメッセージを込めた(単に私の独断か?)、病気マン渾身の大車輪が回りつづけます。しかし真の恐怖はこの後に訪れるのでした。
「ズンドコズンドコズンドコ!『食・人・族!』」(擬音に走り始めた私はもはやネタ切れ!?)そうです!遂にあの、“伝説の荒業”が復活したのです!
ひととおりゲロを回し終えた(?)病気マンは、またステージへと戻って行き、今度も何やら取り出します。すると、それまで鳴り響いていた4拍のテクノビートが突如止み、静寂が支配する暗がりの中、病気マンが手にしたそれは!
出ました、「鉄の串」!私が初めて目にしたその時、ステージ終盤、まるで制服のようにピッタリと頬肉にフィットしていた伝説の1本槍!あれから約1年、封印されていた幻の秘技が、遂に我々の前で開眼されるのです!
私にとっては、まるで36年に一度ご開帳される、京都かどっかにあるという、ありがたいお釈迦様を拝むような気持ちです。(五木寛之「百寺巡礼」を参照のこと)
この日のためにお遍路まいりをして来ました。(どこへ?)身を清め、常に正しい行いをし、決してオナニーをしてはいけないという厳しい戒律のもと、西行も通った険しい山道で即身仏となった私の目の前に、病気神が降臨するのです!(「病魔を崇めよ」@モービッドエンジェル)
さあ、そして遂に“病気ピック”をその頬に突きたてた病気マン!行け、行くんだ!
「ア“ア”ア“ア”ア“〜〜〜〜〜!!!」
それは病気マンか、もしくはそれを見守る群集の悲鳴なのか判別がつかぬ絶叫の中、病気ピックが頬肉の奥へと突き刺さって行きます。
先ずは青函トンネル通過!続いて、“黒部ダム決壊!”
病気マンの頬肉は、勢い余るピックの先端を、遂に堰き止めることができなかったのです!「どぜうが出てきてコンニチワ!」
銀色に輝く切っ先が両頬を貫きました!貫通した病気ピック。なんともその痛々しい姿で、最期の熱唱を振り絞る病気マン!
さながら、「学級文庫」と言いたいのだが、口が閉まらず「学級ウンコ!(このネタ使用済か?)」と言ってしまうような舌足らずな病気マン!もしその舌足らずがロリ娘だったら“萌え”だったものを、相手が病気マンでは単にキモイだけ!
うおお、大丈夫か?病気マン!みんなの声援に押され、臨終の断末魔を最期に、本日の病気マン公演が終了したのでした。
これぞ伝説!単にライヴが終了しゲロを片付けようと、ゲロバケツを手にトイレへ向かっただけなのに群集が逃げ惑ってしまう。これだけのパフォーマンスをしながら、終演後誰からも声を掛けられない、病気マン!
「果してオレは、本当にウケているのか!?」そんな自問自答すら聞こえてきそうなほど疲労に満ち、その後はフロア脇で茫然自失となってへたり込んでいた、新世紀のアルケミストたる彼の両肩に、そこはかとない哀愁が漂っていたのでした。

@ちぇっそ@