死の蔵書

今朝は西船橋の喫茶店にて、モーニングセットなんぞを頂いてまいりました。リーズナブルな価格で、本格サイフォン式のレギュラーコーヒーと、バターののったサクサクトースト、そしてちょいとリッチな感じがする、ベーコン&エッグのサラダを食し、「ティファニーで朝食を」気分を味わえました。
まあ、そんな大げさなものでもありませんが、ピクルスが美味かったのと、やはり本式のコーヒーってこの味だよなあ、なんて。普段はファーストフードの煮詰まったコーヒーしか飲みつけていない私は、思いの他フルーティなその味わいに、一流芸能人バトル(ダウンタウンがよくやってるヤツね)に出場したら、煮詰まったコーヒーを評し、「こちらのカフェの方が、熟成されたコクを感じますね。これは恐らく、コロンビア産の最高級豆を何年か寝かせておいた逸品でしょう!」などと知ったかぶって赤っ恥をかくこと請け合いですね。もっともその前に、そんな企画に参加できるほどのセレブじゃありませんでしたね。
というわけで、たかだか500円のセットに、「朝からこんな金払いを続けてちゃあ、半年後には破産だな」なんて考えている私は、その時点で完膚亡き負け組みであります!
はてさて仕事中にも関わらず、ヒマな時間を持て余し読書にふける悪い私です。お陰様でジョン・ダニング「死の蔵書」を読了致しました。
古書ミステリと申しましょうか、古本にまつわる事件を描いた一風変わった推理小説であります。とある古本の掘り出し人が殺害された。事件を担当するのは、古書刑事(この言い方はオカシイか)。捜査を進めるうち、どうやら裏で古書マニアの陰謀がうごめいてることを察知するわけです。中には千ドルの値がつく稀覯本も存在します。果して、本のために人が殺せるのか?一攫千金を狙う古書マニアたちの、切実なる本への執着が交錯するのです。
何気に少しハードボイルドタッチで、特に主人公のジェーンウェイ警部が放つ、いかにも文学マニア然とした決め台詞の数々が、更にクールな印象を助長させます。まあ、それがかえって芝居がかっていて前時代的な部分も感じさせますが、そこは元々ミステリ好きの主人公という設定で、確信犯的に取り込まれる作者のユーモアとして受け取りましょう。
特にミステリ読みでない私は、縦横に張り巡らされる伏線のあまりの多さに、途中混乱を来たしたりしましたが、作品のエンターテインメント性を損ねるほどではありません。
ラストで犯人の正体が判明した後、更にもうひとつの謎が解明されるに至って、またちょっとしたサプライズが用意されている辺り、単に謎解きだけでない、作品に粋なはからいを与えるオプションとなっています。個人的にはこの正に最期の1行に一番の驚きを抱きましたが、ミステリ慣れした方なら恐らく、途中でこのトリックが分かったのではないでしょうか。
いやね、よく考えれば分かるんですよ。いかにも古典的なトリックですから、思わずニヤッと、作者のミステリ通振りに口角が上がってしまうのです。
さて再三申し上げますが、仕事中にも関わらず本を読み終えてしまった私は、更にもう1冊読もうとしたところで、思わぬ失態が発覚してしまったのです。読み終わった時のためにと持ってきたのは、オーストラリアが生んだ現代最強SF作家、グレッグ・イーガン順列都市」だったのです。
先ず読み始める前に、本を一通り観察します。いきなり読み始めるのは、本読みとして野暮なヤツとして括られてしまいます。伊丹十三流のラーメン導に由来するわけではありませんが、始めにラーメンに対する愛情表現として、外気に触れて表面が乾燥するがままに任せたチャーシューをいたわるが如く、麺を食す前よりも、スープをすくって飲むより先に、箸の先でチャーシューをスープの中へと沈め、「さあ、よく吸えよ。汁をよく吸って、おいしいチャーシューになってから、俺の胃袋に収まるんだ」といった次第。
これと同じことが読書にも言えます。いきなりページを開いたりせず、先ずは表紙を眺め、買うときに読んでいるとは思いますが、改めて裏表紙のあらすじを読み、巻頭の目次を確認、登場人表はあるか、そして文字のフォントを確かめる為に数ページをパラパラとめくる。そして本への愛情が最高潮に高まった段になって初めて、おもむろに1行目から読み出すといった算段になります。
まあ、そんなかしこまったことは抜きにいたしまして、そんな風に本を眺めていた私はふとある事実に気がつきました。それはなんと、私が持ってきたのは、分冊された「下巻」の方だったのです!実は上下2巻の作品でして、私は対して確かめもせず、自宅から意気揚々と運び出していたという始末。
さすがにこれでは読めませんね。レコードならいきなりB面から聴き始めても問題ありませんが、いやむしろB面から聴いて、「なんだこの壮絶なヴァイオリンの調べは!」と、とある評論家をビックリさせた70年代プログレバンド、ダリル・ウェイ・ウルフの1stがあるくらいですから、そんな手違いが項を奏すなんてことも有りますけどね。
しかし小説の場合はやはりそうは行きませんよね、残念です、今日の私は一人残念賞でした。ちなみにダリル・ウェイ〜は、「A面聴いたらそれほどでもなかった!」という、こちらもハーフ残念賞だったようです。
注)B面のインパクトが強すぎただけ、だそうですけどね。

@ちぇっそ@