「ぽっぽや」でなくて

正月休みや、先日の3連休の時にたくさん映画を見たかったのですが、ついぞなまけの最たる悪癖が露見して溜まったビデオすら消化できず、せいぜい見たのは、テレビ放映された「チキンラン」くらいでした。吹替えでしたが、タレントの優香が実に上手く声入れをしており、主人公のイメージにぴったり合った演技でとても良かったですね。彼女の意外な才能を発見しました。
というわけで、昨日ビデオ見ました。イタリア作品、「鉄道員」です。念のため「ぽっぽや」ではありませんので、あしからず。
まさに「映画」とはこういった作品にこそ用いられるべき形容でありましょう。イタリア製作、50年代のモノクロ作品。結果的には悲劇でありますが、イタリアらしい躍動感に満ちた、傑作と呼ぶにふさわしい映画でした。
鉄道員の父は特急を運転する機関士、恩年50歳、まだまだ酒もいける働き盛りの頑固オヤジであります。職にも付かず放蕩三昧の息子、父と折り合いの取れない思春期の長女。いかにもイタリアらしい、豪快さと寛大なやさしさを持った母親。そして主人公であるやんちゃ坊主の末っ子の視点から、父親と家族、そして彼らを取り巻く周囲の人間模様が語られます。
飲んだくれの父親に反感を覚える年上の兄弟らの衝突。こうして家庭は時として殺伐とした様相を呈しますが、その背後にそれら家族の軋轢を一手に引き受ける、寛大なイタリアの母の象形があります。一家の主を尊重し、娘息子の苦悩を言葉少なに受けとめる。ともすれば、衝突し分裂してしまうだけの衝動を緩和し、家族の絆を繋ぎとめておく。そんな偉大なる母親の姿がこの作品の背後に見え隠れしています。
妊娠していた長女の死産、娘をろくにかまってやれなかったことから父は自らに責任を感じ、その心労から仕事中に重大な事故を引き起こしてしまいます。これが引き金となって、家族の団らんが崩壊の一途を辿るわけです。
そんな中にあって、主人公の末っ子の愛くるしい笑顔にはとても癒されます。ふっくらほっぺにクリクリっとした丸い目は、本当にキャベツ人形のような可愛さ。酒びたりとなり落ちぶれた父ですが、息子を見やるその目はいつもやさしさに溢れています。曲がったことが大嫌い、正にイタリア男児の誇りの塊といった父は、時には厳しすぎることもありますが、力強い二の腕を持ち、息子の目にはまるでヘラクレスのように映っていたかも知れません。
深読みに過ぎるかも知れませんが、ちょうど労働組合によって勃発した騒動により、現代の姿へ様変わりしてゆくイタリア社会の流れに乗れず、落ちぶれて行く古きよきマカロニ魂への憧憬といったメッセージも込められていたのでしょうか。イタリアの歴史にはあまり詳しくありませんが、映画の時代背景も撮影された当時と同じ50年代のようですし、それはつまり2つの大戦が終わりを告げ、ファシズムの悪しき記憶を早く消し去ろうと、国民が奮闘していた時期ではなかったでしょうか。
激動の中で巻き起こる喜悲劇、ローマ帝国として君臨したイタリアが、昔日の栄光から転落し新たにヨーロッパ諸国の一員として変化を遂げる、そんな現代への黎明を告げる激動の時代のドキュメントであったと言えるかも知れません。自分たちが整備し、毎日操縦する機関車と同様に、彼ら自身にとてつもない力強さを感じます。それがまたこの時代においてもなお、力強さに溢れた労働者階級の人々の姿を伝えていると思います。
いかにも陽気なイタリアン。隅に置けない気さくで素敵な中間達によって、機関士とその家族は元の絆を取り戻して行きます。最期は悲しい悲劇をともなって劇終となりますが、個人的には逆に何かほっとしたような、自分の過去の経験とダブるようで、その当時の気持ちを思い出しました。
正直、とてつもなく悲しい物語です。しかしこれこそが現実、これこそが人間!と言いたくなるような、感動的な人間ドラマでありました。

@ちぇっそ@