なし崩しの無知

世の中にはおかしな人がたくさんいるもので、街角や電車通勤などでそういった人をよく見かけます。もっとも、自分だけがまともであるなどと考えるのも尚早でありまして、自分の常識が他人の非常識であるなど、この世の常としてつきまとうもの。傍から見たら私も変人として映っているかも知れません。ここで、私が唱える「人類総フリークス説」というものが成り立つわけです。ま、単に自己弁護のためにそう言ってるだけですがね。それはともかく、ここはひとつ目クソの私が、巷で見かけた鼻クソ君を槍玉に上げてみようと言う訳です。
REEXのバンド練習の帰り、総武線の座席に座っていた私の前に、2人連れのサラリーマンが乗り込んで来ました。一人はだらしないビール腹をしたガタイの良い若者、どうやらこちらは後輩。そしてもう一人は、割とおしゃれにスーツを着こなしている好青年。同僚とは上司の陰口に花を咲かすが、職場では聞き分けよくこなすといったタイプの、こちらが先輩。
そんな彼らが、何やら話しながら乗り込んで来たのです。どうやら海外の渡航経験を語っている模様。するとデブの後輩が言いました、「“オレの居た”ユタ州は。。」ここで私は、「ん?」と首を傾げました。どちらかと言うとニュアンス的には、「“オレの”ユタ州」と言ったように聞こえたのです。
私の被害妄想かと(何の被害妄想かは分からない時点で極度の被害妄想癖の発露と思われ。。)思い、この後の話の展開に耳がダンボと化して行きます。「。。のユタ州って、面積が本州くらいあるんですよね。広いっすよねぇ」すると先輩、「へぇ、そうなんだ。オレはそうだな、ソルトレイクに行ったことがあるよ」「えぇ、ロサンジェルスっすか!」。。。(はァ?!)
私は思わず耳を疑ってしまいました。いきなり話の筋が噛み合っていない!「ソルトレイク」って言ったのに「LA」って返したよ。でもソルトレイクってロスの近くだっけ?そんな疑問が私の頭を過ぎります。念のため後日調べてみたところ、ソルトレイクはなんユタ州の州都!これは先輩が気を利かせ、わざわざ話を合わせていたのではないでしょうか。それを「ロス」と返すなど、せっかくの気遣いが台無しです。
せめて、「ああ、オリンピックのあったところっすよねぇ。(陸上)200mのマイケル・ジョンソンの速かったっすよねぇ」「バーカ、ソルトレイク冬季オリンピックだよ!」「あぁ、そうでしたっけね。アハハハーァ」なんていうやり取りであったなら、「カワイイやつめ」と先輩も寛大な心を見せたかも知れません、しかし、その時点から既に先輩の様子が変わってきたのです。
そして立て続けに、「アメリカって、いま、凄いことに、あの、なってますよね(ちょっとどもり気味だ)」「え、何が?」「え、っと、ほら凄いじゃないすか、戦争が」。。。(ん?アメリカ国内で戦争なんてやってないぞ!一体なんのことだ?)
イラクに駐屯してる。。」。。。(ああ、イラクか)「。。アメリカ兵が、イラク人を精神的に追い詰めようとして、“ロックを聴かせてる”そうじゃないすか」。。。(えぇー?!いつそんな話があったんだ?!)
もう先輩は聞く耳をもっていません。こんなスキャンダラスな内容を聞いても、「へぇ」の一言で済ませてしまいました。私も同感です。ここまで来ると話す価値ナシです。「アメリカ兵がロックを聴いている」とう話題は知っていましたが、こんなことは知りませんでした。いや、どこかで報道があって、単に私の無知であったかも知れませんが、コイツがまたどこかで話のすり替えを行ったのでは、という疑問も推測されます。
そしてその話題についてさらに続けます。「イラク人に、ロックを聴かせるなんて、アメリカ兵って、“懐深いっすよね!”」。。。(なんじゃそりゃ〜ァ?!)
後はもうなし崩し。彼の無知っぷりに歯止めが掛かることはなく、「凄いっすよねぇ、アメリカ。ロックぅ、聴かせるなんて、頭いいっすよね。いいなあ、羨ましいっすよねぇ。。」
真正面で交わされる会話を前に、笑いで引きつった顔を上げることもできず、私はひたすら声を上げないよう、車中は常に下を向いたままでした。こんなお馬鹿な話に付き合うほうも災難です。案の定、私が電車を降りるころ、先輩は相槌すら打つことなく、会話は完全に沈着しておりました。やはり、同類と思われたくもないですからねぇ。

@ちぇっそ@