ちょっと前に読んだやつだけどね

ロープシン「蒼ざめた馬」を読みました。
これは近年特にテロリズムが取り沙汰されるようになった、現代でこそ読んでもらいたい1冊ですね。
物語の背景は、20世紀黎明のロシア。正にロシア革命に向かわんとする激動の時代。新思想を持った理想に燃える若者たちが、専制君主の暗殺を計画する。一様に信仰心の篤い彼らは、自らの行動に疑問を抱きながらも、キリスト教義の読み替えを行い、「正義の為の殺人なら神に許される」と、自らを納得させます。
この辺り、ドストイェーフスキー的な一種狂気にも似た思想に彩られて行きます。実際このロシアの大作家の影響は大きかったものと思われますが、実のところ、ドスト氏は確かに新思想や、それを支持する若者に対して理解を示していましたが、テロリズムはおろか、全くの新しいロシア社会を建設しようとしたわけでなく、単に古き良きロシアへの回帰を願っていたわけです。
ある意味ニーチェと似て、革新的な意見を持つ当時の若者が共感を得るような、扇動的な一面はあったかも知れません。しかしドスト氏は、こうしたインテリゲンチャの急進的な行動こそ戒めていました。
このような形で、ドスト氏の目指した思想が、あらぬ方向へと一部の人たちを扇動してしまったことは皮肉と言えるでしょう。しかし、テロ行為という激しくも過酷な青春を描き出したロープシンという作家もまた、自らが実際のテロリストであり、且つ詩人であるという、非常に特異な経歴を持っています。その彼が描き出す、テロリストの青春像は、なんの偽りも誇張もなく、痛みを伴って読み人の胸に突き刺さってきます。
禁断の道を歩み出した若者は、もはやテロという行為に興味を持たず、人の死に対して無関心を装い、どこか抜け殻のような無機質な人間へと変貌して行きます。彼の心理が蒼い霞みの如く、冷徹で怪しい魅力を持って語られます。
なんとも言いようのない、不思議な青春小説なのですが、それは恐らく作者の経歴から発せられる魅力でもあるのでしょう。あくまでリアリズムに徹しながら、詩人らしい端正な情景描写により、ドストイェーフスキーとはまた違った幻想味を帯びているからです。
普段ロシア文学に親しみのない方でも、また、そもそも海外文学が苦手で、ましてやロシア人の名前なんて長くて覚えられない。そんな人でもご安心を。主人公は自らを英国人やら、仏人だなどと偽っている為、何故かジョージと名乗っています。他の主要人物も詩的に響くようにという配慮があるのか、エレナやエレーナと、非常に覚えやすい名前となっていますので、ロシア文学初心者にもお勧めです、たぶん。

年末年始は、(私の中で)恒例のドストイェーフスキー祭りを行うつもりです。合言葉は「お正月はドストイェーフスキー」「もういくつ寝ると、ドストイェーフスキー」
それでは、ごきげんよう。ダスビダーニャ!

@ちぇっそ@