キャナリー・ロウ

キャナリー・ロウ(缶詰横町)には売春婦、ポン引き、ばくち打ちにろくでなしが住んでいた。つまりはあらゆる類の人種がいたわけだが、この街の住人たちの間には運命共同体としての絆があった。ないがしろにされる者は一人もなく、失敗した者がいても、時が経って許されるまで見守り、失敗した本人は、ほとぼりが冷めるまで慎ましく生きるのだ。退廃とノスタルジーに満ちた叙事詩
アメリカ文学の大御所、ジョン・スタインベックによる長編。
恐らく本作の主人公であろう、ろくでなしのマックは、町に住む生物学者の先生のためにパーティを開こうとします。ところが第一回目の試みは大失敗!汚名挽回となる第二回目の作戦を決行するのですが、どうしても前回失敗が頭をよぎるのでした。
この基本ストーリーの中に、時として全く脈絡なく幻想的ともとれるエピソードが挟まって、キャナリー・ロウが生み出す独特のノスタルジーを演出しています。
文庫で250ページ足らずにも関わらず、全32章の小編で構成された本作。愛すべき人間ドラマがここにはあり、登場するキャラクターの全てが限りなく愛おしい存在に思えてきます。
「恐らく主人公はマックである」と書きましたが、もっと大きく視野を広げるなら、この缶詰横町そのものが主人公であると言えるでしょう。
終盤、サンスクリット詩の引用があり、またその後に、名も知らぬ本の一節が読まれます。散文的な本文と(そうであっても文章の響きとリズムが素晴らしいが!)、緻密に構成されたこれらの文章の対比があって、物語の余韻を更に引き立たせる効果をもたらすのです。
人生、厳しさを経験してこそ美しくなれる!心が荒んだときに読みたくなるような、大いなる癒しを覚える傑作でした。

@ちぇっそ@