マイケル・K

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ノーベル文学賞を受賞したことでも知られる、南アフリカの作家による長編。本作ではブッカー賞を受賞しています。
主人公マイケル・Kの上唇は裂けており、まるで兎の口のような奇形を持って生まれました。屋敷の使用人として働いていた母がある日病に倒れます。庭師として働く傍ら、マイケル・Kは母の面倒を見ることになるのでした。
病床の母は故郷の農場へ戻りたいと漏らし、マイケル・Kもその豊かな土地でのんびりと暮らすことを夢に見ます。
そんな矢先、市内で暴動が起こり、マイケルの親子が暮らしていた屋敷が略奪されます。生活の全てを失ったマイケル・Kは、母を連れ故郷のある農場へ旅立つことを決心します。
内戦と貧困、南アフリカの情勢を背景にして描かれた放浪の物語。マイケル・Kは行く先々で虐げられ、着るものは悪臭を放ち悲惨の極みにあるように見えます。
しかし決して必要以上に虐待されることはないし、彼の悲惨さはむしろ自らが望んで陥った境遇のようでもあります。
それはマイケル・Kが、食品から住居から、とにかく人の手が加わったあらゆる物を受け付けることが出来なくなり、人との接触を極力避けることによって生じた、「彼がどこにも属さない」と言う特殊性から、人々がマイケル・Kに対して何か神秘的なものを感じ取って、どこか愛着のような感情を抱くことによるものだと、私は推測します。
ある意味悟りを開いた仙人のようだとも言えますが、何かもっと妖精とか精霊のような存在なのかも知れません。そのような自然界からの使いが、静かな怒りを持って人類に訴えかけているような印象を持ちました。
ページ数は少ないのですが、個人的には割りと難儀した作品でした。原文は、もしかしたらもっとユーモア(と言ってもブラックなもの)が込められているかも知れませんが、翻訳になったものは結構硬い感じの文章でした。
訳が悪いと言うことは全然ないのですが、私には少し合わなかったのかなぁ。浅倉久志先生や伊藤典夫先生辺りの訳だったら、もっとこう、ヴォネガット的なシニカルな笑いが出たかなぁ、と思いました。

@ちぇっそ@