襲撃者の夜

襲撃者の夜 (扶桑社ミステリー)

襲撃者の夜 (扶桑社ミステリー)

英国の鬼畜作家ジャック・ケッチャムが描く、凄惨なスプラッター長編。原題はオフスプリング
デヴュー作「オフシーズン」の続編ともなっている本書、「あのとき全員殺したはずの食人鬼たちの中で、もし逃げのびている者がいたとしたら!?」とのコンセプトでもって、復活した食人鬼集団が再び人々に襲い掛かる、猟奇趣味満載の作品となっています。
前作で警察官だったピーターズは既に職務を去り、今度の事件の捜査協力のために再び登場。しかしそれ以外は、舞台も新たにし全く別のストーリーが展開します。要するに「オフシーズン」の別バージョンと言ったところ。
森に住み、まるで獣のように暮らす「ウーマン」は、前作で大暴れした「野人」どもの生き残り。彼女は群れを建て直し、血と肉を求め、人家へ「狩り」に出かけます。
大雑把に言って話の筋はこれだけ。後は“獲物”の頭を斧でかち割ったり、太腿の肉を食いちぎったりなど、残酷描写の連続がほぼ全編に渡ります。身もフタもないと言ってしまえばそうなのですが、この「身もフタもない」感じが、ケッチャムをして、他の猟奇作品と一線を画す所以となっています。
「不幸になるのに理由なんてない。悲劇は人を選ばず忍び寄る。人生が転落するタイミングなどはなく、転落の始まったときがそれなのだ!」
動機も脈絡も、論理的ですらなく、主人公たちがとにかく窮地に追い込まれて行くのがケッチャム作品の特徴。徹底的に無慈悲に、いとも簡単に奈落の底へと突き落とされてしまう「普通の人々」。一見冷徹ともとれる作者の視点から、物語の登場人物はその運命を翻弄されてしまうのです。
しかしそのような状況にあって「それでも生きようとする」、登場人物たちの「折れない心」が同時に描かれています。人間の強さを信じようとする、作者の願いが込められている部分でしょうか。
とは言え、基本的にはいつもどおりの悪趣味な作品であり、普通の感覚の人が読んでも、なんら得られる感動はないでしょう。ここにカタルシスはなく、とにかく救いようのない世界が広がっているだけですから。
悪趣味に徹しており、特に食人鬼たちがねぐらにしてる洞窟など、INCANTATIONやDEEDS OF FLESHのアルバムジャケットを思わせる、シュールでカンニバルな情景が浮かんできました(デスメタル好きなら想像できますね)。
衝撃度ではやはり「隣りの家の少女」や、「オフシーズン」に及ばない気もしますが、あえて続編の形を取り、作者自身が楽しんで書いたような一作に見えます。
個人的には最新長編の「黒い夏」のように、何かが起こりそうで起こらない、じっくりとサスペンスを盛り上げる作品が気に入っているので、次回の長編に期待したいところです。

@ちぇっそ@