イリヤ・ムーロメッツ

[rakuten:cd-abbey:10008970:detail]
イリヤは体が不自由だった。ある日、他民族が村へ押し入り略奪を尽くすが、動くことがままならないイリヤは戦うことが出来ない。そして最愛のワシリーサを連れ去られてしまった。喧騒の後、偶然通りかかった旅人に薬草を飲ませてもらうと、あら不思議!イリヤの体は自由になり、ワシリーサを救う旅に出る。キエフの王に仕えることとなったイリヤは、軍勢を率いてカリン王が統治する他民族との対決に挑む。
ロシア・ファンタジーの父アレクサンドル・ブトゥシコが、英雄イリヤの民話を映像化した長編。
鮮やかな映像美に定評のあるブトゥシコ作品ですが、その序盤、30年間体が不自由だった主人公イリヤが、薬草を飲んだ途端元気になったりと、強引ともご都合主義とも取れる幕開けから始まります。このような展開が多々見受けられるのですが、この辺りはロシア民話そのものを知っていないとかなり唐突に思える部分。かく言う私も、ロシア民話に関しては全くのトウシロなので、面食らうこと多数でした。
もっとも民話などについて言えば、そう言ったものは何かを象徴する出来事として描かれるものなので、話が論理的でないと言って批判するに当たらないところだと思います。元より、ロシアのヒーロー・アクションとして本作の性質があるので、深く考えずに、竜が火を噴き、騎士が剣を交える活劇を楽しむのが一番でしょう。
世界初の人形特撮アニメ「新ガリバー」を手掛けたことで知られる本監督。従って美術のディテールについては素晴らしく、特殊メイクを施した妖怪(口笛を吹いて強風を起こす。水木しげるの描く子泣きじじいに似ている)や、3つの頭を持つ空飛ぶ火竜など(当然キングギドラを想像させるが時代は本作の方が古いか)、思わずワクワクしてしまうような楽しい特撮が満載。
敵のカリン王のルックスはもろにモンゴロイド系。当然チンギスハーンを彷彿とさせますが、と言うことはつまり、モンゴルがロシアに攻め入った「タタールのくびき」に似ていると思えなくもない。そう言った意味では、モンゴロイドの統治から反逆に転じた「大祖国戦争」のイメージをも想起させます。
ところで、このカリン王と言うのが実に悪いヤツでして、普段自分が座っている台座を数名の家来(奴隷か)によって支えさせている。言うなら「人間台座」なる贅沢な逸品。
さらには「物見台を作れ!」との指令に、数百名に及ぶかと言う家来が山なりとなり、即席の「人間丘」を作った上に”馬で乗り上げたり”と、見る人によってはとてもSMチックな残酷性を見出すかも知れませんね(それとも快感か)。個人的には、クライヴ・バーカーの短編「丘に、町が」を思い起こしましたが。
とにもかくにも楽しいディテールで飽きさせない。デジタル処理されたRPGとは違った、正に生のファンタジー・ワールドがここにはあります。

@ちぇっそ@