アシク・ケリブ

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吟遊詩人アシク・ケリブは領主の娘に想いを寄せる。2人はお互いに慕っており、ケリブは彼女の実家まで結婚の申し込みをしに行く。しかし「貧乏人に娘はやれぬ」と、娘の父親に反対されてしまった。そこでケリブは出稼ぎの旅に出た。「1000日経ったら戻る」と言い残して出発したが、しばらくして旅先でケリブが死んだとの報が伝えられ、彼の母親はショックのあまり目が見えなくなってしまった。しかしケリブは生きていた。様々な困難に遭遇し、ひとまわり大きく成長した彼は奇跡を起こした。思い慕う娘が、別の男と結婚させられることになった式の当日、白馬にまたがったケリブは、たったの一日で遥かなる大地をまたぎ越して戻って来た。
グルジアが生んだ奇才・天才、セルゲイ・バラジャーノフによる色彩に溢れた長編。
原作はレールモントフと言うことですが、民話・神話的に演出された本作は、明確にストーリーを追うと言うよりは、荒唐無稽で奔放な瑞々しさに溢れた作風となっています。出演者はグルジアの伝統的衣装に身を包み、神聖で儀式めいた太古の人々の生活様式が伝わって来るようです。
基本はサイレントで撮影し、台詞は後からアテレコしているよう。全編に渡ってスラブミュージックが響き渡り、エスニックな雰囲気に満ちている。独特なモンタージュ、象徴的なモチーフなどを多用して、鮮烈でエキセントリックな仕上がりになっているのは、いつものバラジャーノフ作品の例に漏れないもの。
しかしそこからは、「アートすること」を狙った故意的なわざとらしさは感じられず、実験的な手法を無邪気にもてあぞぶ、監督によるユーモアの精神だけがあるでしょうか。視聴者は四の五の言わずに、これらの映像表現に素直に身をゆだねることが大切。
最初、「赤」かった果物が歓喜を表し、次に不気味な運命を予言する「黒」に変化し、最後は、全てがまた神聖なるものに戻ったように「白」に染まる。このような場面ごとによる色彩の変化に注目してみるのも、また楽しい。
「色」の使い方に対して、類稀なる才に長けた監督バラジャーノフ。「映像作家」、または「映像詩人」たる所以は、正にこの点に尽きるのではないでしょうか。

@ちぇっそ@