クイルズ

シャラントン精神病院に幽閉されているサド侯爵。「書くことによって邪悪な思想を吐き出す」として、自由な執筆を許されている。それは洗濯女マドレーヌの手によって出版社に渡され世間を賑わす。または他の精神病患者と共に、卑猥な脚本を書き舞台を上演する。しかしその掟破りな行動が自らの悲劇を招いてしまう。
捕らえられて尚、書くことへの情熱と、エロスへの執着を失うことのなかったマルキ・ド・サドの晩年を描いた大作。
ナポレオン体制下、逮捕され精神病院へ収容されたサド侯爵は、書き上げた「新作」を密かに外部へと受け渡していたのです。これはもちろん規則違反。所業がバレた彼は、病院の監督役である神父によって書くものを取り上げられてしまいます。
ところがもって、それに反撃すべくサド侯爵が手段を講じます。夕食のワインをインクに、鳥の小骨をペンの代わりに、自分が寝ているシーツへと「最新作」を書き始めたのでした。
このようにして、職権を楯に病室から筆記用具となり得るもの全てを奪う神父でしたが、それに反発するようにして、サド侯爵は新たな手段を編み出し、書くことを止めないのです。
この辺りがとてもコメディタッチで、サドの狂気的な部分よりも(しかし充分狂っているのですが)、作家としてのバイタリティに圧倒され、視聴者はきっと不憫なサド侯爵を応援してしまうことでしょう(笑)
「粛清された社会」へ反発するメッセージもあり、表現の自由を奪われ迫害された弱者として、サド侯爵の姿を見ることも当然可能でしょう。このような構図があるために、単に中世の歴史物語と言うより、現代劇として今の我々にも共感できる部分があると思います。
サド侯爵はこの執筆に対する情熱ゆえ、最後は悲劇を招いてしまうわけですが、どこかこう、権力に対して「してやったり!」と言った清々しさがあり、おフランス流のエスプリに「さすが!」と拍手してしまうのです(と言っても米国作品ですが)。
ラストは物悲しい感じになるのですが、とにかくこのサド侯爵の奇行がおもしろい!エログロと言った部分では、サド自身の著作に及びませんが(笑)、彼自身が相当におもしろい人物として描かれています。
かなり変てこな映画ですが、長さを感じさせずに楽しめた作品でした!

@ちぇっそ@