孤独な声


さて今日は、鑑賞当日のレポートが間に合っていなかった「孤独な声」についてのコメント上げておきましょう!これはソクーロフ監督のデヴュー作。ソ連映画学校の卒業制作として撮られた長編です。
鬼才ソクーロフは、当時既に世間一般の常識を飛び越えていたようで、そもそも卒業制作で1時間を越える長編を撮ろうなどとしたこと自体が想定外であり、大学側は“長すぎる“ことを理由に、これを卒業制作として認めなかったそうです。
しかも作品の原案となったプラトーノフの小説が反革命を示す内容でもあったため、プラトーノフ同様、当局に目を付けられ公開禁止の憂き目を見ています。しかしその映像表現の斬新さに注目した巨匠タルコフスキーは、ソクーロフに対して全面的な擁護を呼びかけたのです。
しかし結局一般公開が許されたのは、製作から8年後のペレストロイカ以降。正に、「雪解け」以降になるまで評価されなかった、プラトーノフの運命と重なるようではありませんか。
作品の元になったのは、前記したプラトーノフの短編小説「ポトゥダーニ河」。国内戦が終結赤軍兵士ニキータは故郷の村へと帰って来るが、村人たちはふるさとを捨て多くの人々が立ち去ってしまった。
すっかり荒廃しきった故郷の村。父は年老い、いまや悲観に暮れるだけの日々を送っている。母を失い、みなしごとなったリューバは、わずかな奨学金を頼りに貧困にあえぐ生活を強いられていた。木洩れ日の降り注ぐ木立の中、再開を果たしたニキータとリューバだったが、2人が抱えた悲しみは深く、後に救いの無い悲劇が見舞うことになる。
映画は、苦悩に満ちた復員軍人の姿を、シュールな映像でもって描き出して行きます。相当に悲観的な内容であり、当時ソ連の戦争そのものについて疑問を投げかけるもので、それは当然当局にとって大変な問題作となり得たわけです。従って検閲を受け、不当な扱うを受けたソクーロフは、長い不遇の時代を経験することになったと。
このように映画の背景を知っておかなければ、難解さばかりが付きまとう作品と言えましょう。しかしソクーロフ独自の色彩感覚はこの時点で既に開花しており、正に才気溢れる芸術性に富んでいることは確かです。
重厚で暗鬱と言われるロシア映画の中でもかなり上級者向けであり、正直私も未だにその素晴らしさを完全に理解するに至っていませんが、巨匠の原点であり、またトラウマとなった作品かも知れぬ本作は、ロシア映画界にとって決して無視できぬ、深刻なる審議を世に投げつけた最重要作のひとつであります。

@ちぇっそ@